6-80【試験10】



◇試験10◇


 真っ先に【エイムザール】を討伐した俺は、一足先に【ステラダ】に【紫電しでん】で移動をし、【ギルド】での報告を果たした。

 そして何をするのかと言えば、ミーティアとイリアの試験内容をウィズの力を使って調べて、その場所……【テスラアルモニア公国】の国境付近へと向かったんだ。


 まさかその後にすぐクラウ姉さんが【ギルド】に到着してたなんて知るよしも無く、俺は急いでその場所へ。

 便利だよな、チート能力。


「――お。いたいた……テントの設営だな、今やってるのは」


『これは立派な覗きでは?』


 なにを言う。これは立派な偵察ていさつだっつの。


 俺はかなり遠めから、二人の姿を見ている。

 天上人へと【超越ちょうえつ】した身体能力と魔力の上昇は、こう言った裏方の人材に必須のスキルまで、向上していたんだ。


 まぁ、しっかりと魔法の道具は使ってるんだけどな。望遠鏡的なやつをさ。


「さて、もう夜だぞ……ミーティア、イリア。試験は長く続く人たちも大勢いる、その中で自分たちの出来る事を最大限に発揮できるか、それが最大の試験なんだからな」


 周辺はもう暗い。

 馬車での移動だったんだろうから、当然と言えば当然だが。


 そんな中、ウィズが。


『今のお言葉、【ギルド】の女性が言っていた文言のままですね』


 そんな言わなければ分からないような事を言う。


「……そういう事言うなよ。テンション下がるだろ?」


『ウィズは事実を言っただけです。ご主人様がそんな気を回すようなことを言うはずがありませんし』


 俺が【ギルド】に報告に行った時に声を掛けてくれたお姉さん。

 メイゼ・エーヴァッツさんのお言葉を借りたんだよ、レイナ先輩と仲の良かった人だな。


「でも、その通りだと思うよ」


『と、言うと?』


 俺は望遠鏡の役割を持つレンズ型の道具をポケットに仕舞い、登っていた大木から降りて言う。


「ティアはもう少し、自分を信じる事をしないとな。今までは俺がいたしクラウ姉さんがいたし、ジルさんがいた。ティアは、自分で何かを成さないとって……そう思ってるはずだ」


『当然でしょう。そうでなければ、試験は失格です』


 まぁそうなんだけどさ。

 ちょっと違うよ、ウィズ。


「別に、試験はどうでもいいんだ。最悪失敗しても、俺がティアの夢だけは続くようにするさ……問題は、ティアが自信を持って先に進めるかだ」


 もし試験をクリア出来なくても、俺たちが傍にいる事は出来る。

 だけど、ミーティアは自信を無くす。

 試験をクリア出来なかったと言う……喪失感にさいなまれる。

 周り……俺やクラウ姉さんがクリアして、自分だけが失格だったら、結構心にくるだろ?


『ミーティア・クロスヴァーデンの戦闘力では、冒険者は向いていないと考えます』


「そりゃあな、ティアは別に冒険者になりたい訳じゃないし。俺だって、是が非でも冒険者に!……っては思ってないけどさ。それでも箔はつくだろ?冒険者学校の卒業ってだけで、相当な倍率なんだろうし……二年になれただけでも儲けもんらしいからな」


『……現在の三年生は、片手の指で数えられる程です。そう考えれば……貴重ではあります』


 だろ?


『ですが……転生者である人物たちからすれば――』


「そういう事だって。転生者おれたちからすれば、確かにどうでもいいくらいの称号だと思うよ……でも、本来のこの世界で生まれ育った人たちは違うだろ?転生者には、前世の世界でつちかってきた記憶と知識がある。だからどうとでも出来るよ……正直言って、俺だって村ではもっとやりようがあったと思う」


 別に後悔はしてないよ。

 この世界で一番の宝物。


 ――家族を手に入れたからな。


「そのやりようは……転生者だから選択できるものだ。ティアたちには無い選択肢……だからこそ、成長はゆったりでも、しっかりと進んでいく事が大事だ」


『チート能力を全否定ですか?』


「……だから俺はいいんだって。実際に能力が無いと……多分もう死んでるしな、俺は……――お!テントの設営が終わるな。移動するぞ」


 ミーティアとイリアが移動する。

 俺も、二人の魔力の反応だけで追い、確認。

 魔物の餌になる草の群生地に行くようだ。出るといいな、対象の魔物。


『……』


「……ウィズ、俺は強くなるよ。誰に望まれる訳じゃない、俺が望むんだ。その為にはさ、ティアが必要なんだよ。クラウ姉さんやアイシアも、村の皆も先輩たちもさ……勿論もちろん、お前もな」


 女神が言う「守れるくらい強くなりなさい」の言葉通り、俺は強くなってやるよ。

 その道には、皆がいるんだ……誰一人欠けて良いだなんて、俺は思わないからな。

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