6-70【冬に向けてやるべき事3】



◇冬に向けてやるべき事3◇


 試験まで一時間を切った。

 俺は一人で集中する為に、校内の大階段の端っこで精神統一中。

 端って落ち着くよな……分かる奴いるか?


『ご主人様、クラウお姉さまです』


「ん」


 クラウ姉さん、間に合ったんだな。

 今回の遠征依頼……何日掛かったんだ?

 確か、二年次席のレスティ・シュバークさんの依頼だったよな。


 ラクサーヌさんと……急いでるな。


「そうか、マジで今来たところなのか」


 そのあせったようなクラウ姉さんの仕草と、ラクサーヌさんの呑気のんきな顔を見て俺は思う。

 クラウ姉さんの行く先は……掲示板だ。試験内容を確認するためだな。


「総合クラスは大変そうだな……」


 クラス別の試験内容はこうだ。

 対魔物クラス・指定された魔物の討伐。討伐成功でクリア。

 対犯罪者クラス・A級冒険者との模擬戦。時間内まで絶えられればクリア。

 対軍人クラス・王国軍所属の精鋭部隊の訓練に参加。数日間乗り越えればクリア。

 支援クラス・指定された装備を揃える(自作)。規定ポイント到達でクリア。

 総合クラス・支援以外の全てをこなす……だ。


 総合クラスだけ無茶苦茶なんだよなぁ。


『総合クラスは、【超越ちょうえつ】出来る可能性のある人材が集められているのでしょう。それを乗り越えなければ、進化は出来ません』


「……総合クラスは人数少ないし、命の危機が一番多いもんな。魔物との戦闘、犯罪者の追跡、軍人との戦争……【超越ちょうえつ】する可能性……か。それを育てる目的でもありそうだな」


 クラウ姉さんなら、その内【超越ちょうえつ】しちゃうんじゃないか?


『数年は無理です。A級冒険者でも、【超越ちょうえつ】している人材は極少数らしいです』


 ウィズは俺の見聞きした情報と、永久機関である能力を駆使して永遠に計算し続ける。


「そういうもんか」


『そういうもんよ』


 だから……まぁいいや。


 当然のことながら、冒険者学校では……既に何人もの生徒が脱落している。

 それはどこのクラスも同じで、一年生は今回の試験で半分は減ると言われてるな。

 イリアが残っているのが奇跡って言われるくらいだし。


『事実、二年生は一年生の半分以下……三年生は更に少数です。来年の進級試験では、さらに減る事でしょう』


 それが冒険者学校の育成方法なんだな。世知辛せちがらい。

 そう言えば……ロッド先輩もいつだか言ってたな、自分は三年にはなれないって。


『二年生になる事が出来さえすれば、C級ライセンス取得が出来ますので。それさえ取れれば及第点とは言われていますね、一般的には』


「そうだろうな。俺とかクラウ姉さんも、それが取れればいいと思ってたし」


『そのクラウお姉さまにはお会いしないのですか?』


「う~ん……そうだなぁ」


 会ってもいいけど、ややこしいことになりそうな気もする。

 村に帰った事を話さないとだけど……それ以前に、クラウ姉さんとは転生者の話をする事が確約しちまってるからな。

 今余計な情報を吹き込むのも良くないだろ……総合クラスの試験が大変すぎる。


「今はいい。後でしっかり話すよ……俺の事も、アイズの事も」


 無関係ではないからな。


「さてっと……俺も移動しよう」


 俺は立ち上がり、身体を伸ばして。

 あれ……ちょっと緊張するかも……


『動機は確認されません。脈拍も正常……気のせいです』


 やめてよね……試験の緊迫感を出そうとしたのに。

 台無しだよ……【叡智えいち】さん。

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