6-56【EYE’Sの遭遇3】



EYE’Sアイズ遭遇そうぐう3◇


 台所で水をコップに入れる。

 ミオが作った水道は、既に村全域に拡張されている。

 便利なものだ。わざわざ川に水汲みをしに行かなくていいだけで、時間をかなり短縮できるし、なにより水が美味しい。


「よし。持ってこっ」


 アイシアは念の為、タオルも水に濡らして持って行く。

 鼻を強打していたし、おでこも赤かった。

 心配になったのだろう。恐れや怖さを感じながらも、持ち前の健気さと優しさでそれを押し殺し、親身になってあげたいと思ったのだ。

 それがEYE’Sアイズの共依存のようなものだと、気付けはしないが。


「お待たせ、大人しくしていた?」


「……うん」


 ミオの部屋に戻ると、少女はベッドの上に座り足を投げ出してプラプラさせていた。それこそ年相応としそうおうに落ち着かない様子で。


「はいお水。飲める?」


「ん」


 アイシアの手からコップを受け取り、グイッと。


「ん、ん、ん……ぷはぁっ」


 一気にあおり、目と口を見開いて笑顔になる。


(な、なんて美味しそうに飲むんだろ……)


 その様子に、アイシアも自然と笑顔になった。苦笑いだが。


「落ち着いたかな?お話し……出来そ?」


 少女はコクリとうなずく。

 アイシアは少女の眼前でしゃがみ込んで、視線を合わせている。


「あ。やっぱりおでこ真っ赤だったね……はい、冷そっか」


「ん」


 お姉さんのように、アイシアは少女の世話を焼く。

 初めに感じたあの恐怖は、いったい何だったのかと思わせるくらいには、不思議ふしぎなほどに薄れていた。


「お名前は……?」


 おでこにタオルを当てながら、アイシアは自然と聞く。


「――リア」


「リアちゃんか……良いお名前ね」


「うん、シオが付けてくれた!」


 なんとなくミオと似ているニュアンスの名前にピクリとしながらも、アイシアは続けて。


「それじゃあ、リアちゃんはいくつ?何歳?」


「え~っと……」


 リアは両手で指を折りながら。

 その小さな手をアイシアに見せつけて。


「――九!!」


 九歳。ミオの妹、コハクよりも小さい子だ。

 普通の九歳よりも、少し幼く見える……仕草のせいだろうか。


 村にも子供は増えて珍しくは無いのだが、どことなく……不思議な違和感を感じるアイシア。


「そっか。お父さんとお母さんは?」


「……お父さんはガート、お母さんはシオ!」


 シオと言うのは母親の名だったらしい。

 アイシアは、両親は何処どこにいるの?と聞きたかったのだが。


「それじゃあ、どこに居るか分かる?」


 リアはゆっくりと、首を横に。


「ううん……リア、帰りたい……けど、わかんない」


「……ごめんね」


 その否定は、親がいないと言う事だろうかと勘繰かんぐり、アイシアは何も考えずに聞いたことを謝罪した。


「うん、でも……いっぱい仲間がいるもん、お姉ちゃんも!」


「――え?」


 アイシアの両頬を小さな手で挟み込み、リアは言う。

 その意味を理解出来ずに、アイシアはキョトンとした……その時だった。


「――アイシア!!」


 大きな声で、この部屋に入ってきた人物。

 この部屋の所有者、ミオがやって来たのだ。その整った顔を、怒りにゆがませて。

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