6-54【EYE’Sの遭遇1】



EYE’Sアイズ遭遇そうぐう1◇


 ミオがアイズと話をしている最中さなか、スクルーズ家に来客が。


「おはようございまーす」


 その挨拶に、家主は誰一人反応しなかった。

 正確には、既に畑に出ていて……誰もいなかった、だが。

 それを知っててなのか、知らぬなのかは本人にしか分からない所だ。


「あれ……誰もいないのかな?」


 勝手口から入り、リビングへ進む侵入者……ではなく、オレンジ色の髪の少女。

 アイシア・ロクッサ。


 田舎特有の、鍵を掛けないその仕様は異世界でも同じらしく、アイシアも普通に入っている。

 アイシアの場合は、もはや自分の家と同じくらいに行き来しているため、誰もとがめはしないのだが。


「あぁそっか……畑かぁ、なんで忘れてたんだろ……疲れてるのかな、わたし」


 額にポンっと手の平を当てて、アイシアは自分の失態に気付く。

 いつもの事なのに、何故なぜか忘れていたのだ。


「おじさんもおばさんも、レインさんも畑……コハクちゃんは学校か」


 リビングの大テーブルにポツンと着きながら、アイシアは誰もいない他家で孤独を感じた。


「ミオは?まだ寝てるのかなぁ……疲れてそうだし、昨日変な事も言っちゃったもんね……」


 自分の言葉で彼が悩む事は明白だった。

 反省はしている、しかし……後悔はない。

 あのままミオの言葉を聞けば、自分の未来が決まってしまうと、どこかで気付き始めていたのだ。


「……ふんふん。起こしちゃおうか」


 たまには幼馴染らしい事でもしてやろうかと、アイシアは席を立つ。

 そして突然、虚空こくうに向かって。


「ミオ、朝だよっ!起きて!!……う~ん、違うかなぁ」


 イメトレである。


「ミ・オ。お・は・よ・う!ちゅっ!!――いやぁぁぁぁぁ!無理無理無理無理!」


 首を振り、自身の発言にドン引きするアイシア。

 恥ずかしさに顔が爆発しそうだった。


「うぅ……バカみたい」


 変な小細工は止めて、結局普通に起こす事にしたのだった。




 コンコン……と、部屋をノック。


「……起きてますか~……返事はない、寝てますね?」


 ニヤリと、アイシアドアノブに手を伸ばした。

 右手で触れると……突如。


「――いっ……!!」


 反射的に、ドアから離れた。

 痛んだのは――眼だ。


「な、なに……?また、またなの?なんで、ここで……」


 観えた。

 その光景は……死。


「今の……誰?」


 血の海に沈む、一人の少女。

 赤い景色に……誰かが命を落としていた。

 血濡れで、誰かは分からなかった……だけど一つ、確実に分かる事は。


 それが死だという事だ。


「うぅ、い、痛い……目が、目の奥が痛いよ……」


 赤いはずの瞳が、紫色に発光している事など気付かずに、アイシアは両手で目元をおおう。

 そして、異常は自分以外にも。


 ドタン――


「……ミ、ミオ?」


 部屋から聞こえて来たのは、ベッドから落ちたであろう落下音だ。

 助けてもらいたい……この苦しみから、痛みから。

 そう思ってしまったアイシアは、自然と……再度ドアノブに手を伸ばした。

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