6-53【そして輪廻は巡りゆく2】



◇そして輪廻りんねは巡りゆく2◇


 俺の幼馴染、アイシア・ロクッサ。

 そんな彼女におとずれた変化は……瞳の色の変色だ。

 その理由は、【女神アイズレーン】と同一の存在になるための――代替品だいたいひんだと言う。


女神あたしたちはいずれ朽ちて死ぬわ。神だってのに巫山戯ふざけた話でしょ」


 自棄やけになったように、声のボリュームを上げたアイズ。


「この身体になってもう直ぐ千年……もう寿命じゅみょうも少ないわ。だからEYE’Sアイズがあたしに近付いて来たのよ、次のアイズレーンは自分だってね」


「ど、どういう事だよっ!アイズはアイズなんだろ!?なんでそんな、自分じゃなくなるみたいに――」


「継承されるのは――だけだからよ」


「な……っ」


 つまり、今ここにいるアイズは……死ぬ?


「新しく神になったEYE’Sアイズは、長い年月をかけて、自分が神だという事を知るわ。それこそ緩い湧き水のように……自然に、ゆっくりと数十年をかけてね。そこから自分を女神だと認識する。そこから約千年、身体が尽きるまで……女神として生きなければならないのよ」


 頭を抱えて、アイズはそれを苦悩だったと思わせるような口ぶりで語る。


「お前も……EYE’Sそうだったって、事か?」


「そうよ。あたしは普通に、この村で生まれた村娘だった……アイシアと同じでねっ。だからあたしは、この村を作ったアイズレーンを知らないし、記憶もない……ただ、事実だけが残ってる。どれほど前か知らないけど、アイズレーンがこの村をおこし、結界を張って、守り続けてきた事だけが」


 前のアイズレーン。

 自分ではない自分が大昔に行った事すら、今のアイズには記憶がないのか。

 ただ、歴史として知っている……それだけ。


「じゃあ、記憶は……アイシアも?あの子も?」


「……記憶は人間だった頃のままよ。あたしもそうだもの……でも、女神になれば自由は利かない。主神は直ぐに神界へ呼び戻すでしょうし、なにより長い年月は……記憶を薄れさせる」


「避ける……方法は?」


 くそっ……なんだ、喉がかわく。

 アイズの話を聞いてから、動悸どうきが治まらない。

 アイズの事もそうだけど、なによりアイシアの事が、アイシアにおとずれる未来が……怖い。


「無いわ。あったら試してるっての……」


「……」


 何千年も前から女神は存在していたのだろう。

 アイズレーンも、その枠に収まる存在だった……でも、女神の証明は力だけ。

 記憶も感情も、女神には必要ない……そう取れた。


「あたしは神界から、アンタの能力を回収するって命令を受けてる。それは他の女神も同じでしょうね、イエシアスとか」


「あ、ああ……」


「主神は女神あたしたちに寿命がある事なんて忘れてるのよ、一人が寂しいからって勝手に生み出して、勝手に忘れて……無関心で」


 アイズ……お前もしかして、神が嫌いなのか?


「あたしの寿命が尽きるまで……おそらく後、数年しかないわ」


「――!」


「そうなれば、この世界で生きている六人のうちのEYE’Sアイズの誰かが、次のあたしになる……“今持っている力”をベースに、【女神アイズレーン】の力を継承してね」


 そのうちの一人が……アイシアだって言うのかよ。

 あの【竜人ドラグニア】の女の子も、そうだって。


「いきなりそんなこと言われて……どうすりゃいい。アイシアはどうなる?お前は……?」


「あたしはいい。もう充分生きたもの……でも、これからの未来ある人間たちに背負わせたくはないの……だから協力して、あたしの寿命があるうちに」


 それは、最早もはや強制だった。

 だけど、俺に断れるわけはない。断れるわけは……ないんだ。

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