6-44【瞳の中の真実1】



◇瞳の中の真実1◇


 えてしまった、えてしまったんだ。

 自分の姿が、彼の姿が。

 鮮明に、色どりあざやかな世界の光景を……わたしはてしまった。


 その光景がいったいいつ何時なんどきのものなのかは分からない。

 えてしまったその光景は、ミオと……そのかたわらに寄り添う一人の女性と、幼い子供の姿だった。

 誰かは分からない。鮮明と言いつつも、女性の姿だけはよく映らなかったからだ。


 そしてその光景、その女性が……欲を言えば自分でありたいと思った。

 でも、そう思うだけの自信が無かった。




 えてしまったものを振り切るように、わたしはミオに笑顔を向ける。


「さ、宴会場に戻ろっか」


「……だな」


 腑に落ちない顔をするミオ。

 ごめんね……話したいこと、あったんでしょ?

 でも、それを聞いたらわたしは……だから、ごめん。


「えへへ、いっぱいおしゃくしてあげるねっ」


「ああ……って、まだ呑める年齢じゃないって!」


「あははっ、そうだった!」


 気の許せる関係でありたいと、そう願って時間をかけた。

 いつまでもこうしていたいと、切に願った。

 ミオのやることに口出しはしないし、わたしは見ているだけ……でも今は、見たくなくてもえてしまう。

 瞳を閉じても、まぶたの裏側から映像が流れ込んできて、その光景を何度もせられた。


 怖いものだった。

 彼の言葉が、行動が、その通りに進んで行って、恐ろしくなってしまう。


 えるようになったのはつい最近……あの人・・・に会ってからだ。

 何度も何度も会っているうちに、いつの間にかえるようになっていた。

 夢にて……起きている時ですらせてくる光景……もしかしたら、未来なんじゃないかと思った。


 そして今日、そう確信した。

 えた光景は……自分や、自分に関わりのある人間の未来だと。


 ミオがさっき言おうとしたのは……わたしとの決別の言葉だと分かった。

 隣を歩く、背の高い少年のその言葉は――こうだ。


『俺は、ミーティアが好きだ……ごめん、アイシア』


 そう言ったミオの背中と、夜の村の光。

 完全に、今日この場所だと理解した。


 だから……拒否した。

 その言葉を聞いたら、立ち直れない。

 今まで築き上げてきた数年の努力が、何もしてない間に崩れるなんて嫌だった。

 ミオが好きと言ったミーティアに恨みなんてないし、二人の間に出来た絆も理解できるわ。

 きっと、この半年で……ううん、もっと以前から、ミオはミーティアにかれていた。


 ミオの事を見ていれば分かるよ、何年一緒に過ごして来たか。

 でも、諦めたくない。諦めたくないから……言葉を拒否したんだ。

 みっともなくてもいい、情けなくてもいい。

 なにも出来ないまま、大切な人を失うなんて……絶対に嫌。


「ミオ」


「え……どうした?」


 向かう足を止め、わたしたちは立ち止まり。

 夜空に光る星と月、村の小さな明かりに照らされて……わたしは。


「――好きよ」


 ズルい選択だ。

 ミオが言おうとした事、分かっているのに……言わせないまま、悩ませてしまうと分かっていながら、それでも言ってしまう。


 そして――月の光に照らされ、わたしの告白を聞いたミオの顔は……酷く、悲しげなものだった。

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