6-45【瞳の中の真実2】



◇瞳の中の真実2◇


 ここは何処どこだ?

 なにも思い出せない……あっという間に時間は過ぎて、いつの間にか真っ暗な部屋で、一人……座り込んでいた。


『ここは、ご主人様のお部屋です』


 そうだ……自分の部屋じゃねぇか。

 俺は、アイシアからの言葉を受けて、真っ白になったんだ。

 宴会場に行ったまでは覚えてるよ。余りの喧騒けんそうに、うるせえって怒鳴りそうになったのを、必死に我慢した記憶がある。


『正確には――怒鳴りそうになったのを、レインお姉さまに止められた……です』


 うっ……それはすまん、レイン姉さん。

 でもそうか、ちゃんと宴会はやり過ごせたんだな。


『はい。滞りなく、ルドルフお父さまが対処なされていました』


 そうか、父さんにも悪い事をしたな。

 折角俺の為に開いてくれた宴会だろうに、当の俺が覚えてないなんて。


『来客者のお言葉は、ウィズが一言一句記録してありますので、整合性は問題ありません』


 そっか、助かるよ。


 俺は立ち上がり、窓をながめた。

 まだ月は位置をそんなに変えてはいない。

 時間経過はそこまでしていないんだ……それなのに、なんだかすごく時間を掛けている気がするな。


「……あの子は?」


『まだ眠っています』


 俺は自分のベッドを見る。

 半年いなくても、母さんやレイン姉さんに掃除されて綺麗なままのベッドには、あの【竜人ドラグニア】の女の子が眠っている。


「流されて宴会なんてしちまったけど……」


 本来ならば、こんな事をしている場合じゃないんだよな……いつ起きるか分からない、危険な暴走状態だった女の子。

 ウィズが状況判断してくれているからまだ安心出来るが、それでも油断はいけない。

 それなのに……俺という男ときたら。


「……はぁ」


 月を見ながらため息をく。

 分かってはいたんだ、アイシアの気持ちはさ。ずっと前から、それこそ許婚いいなずけだと知った時に、あの子の一途な思いに気付いて。


「でも……さっきのアイシアは、どこか……アイシアじゃないような、変な感覚だった……それに」


 俺は思い出す。

 月明りを背にしたアイシアの……瞳を。


「アイシアの瞳は人間族……だから赤系統のものだったはず。それなのに、なんで……」


 それが、俺の考えを硬直させた要因。

 俺の思考をストップさせた、一つの不安。


『――好きよ』


 そういった彼女の瞳は――紫色に変貌へんぼうしていたんだ。


「この子と同じ、紫の瞳……か」


 【竜人ドラグニア】の少女、この女の子の瞳もまた、紫色だった。

 種族によって瞳の色が判別できると知って、少し学んだが。


 俺たちスクルーズ家のような、緑系統の瞳をもつ種族を、天族。

 アイシアのような赤系統の瞳が、人間族。

 ラクサーヌさんのような橙色だいだいいろの魔族

 ジルさんやジェイルのような黄色がかった瞳が、エルフ。

 それ以外にも獣人種の茶色……ユキナリの奴の黒色など、様々だ。

 ミーティアは人間族だが、非常に珍しい青色……だけど。


 しかし俺はてっきり、紫色は【竜人ドラグニア】の証だと思ってたんだ。


「……なんでアイシアの瞳の色が変わった?光の関係?そんな事で、あそこまでハッキリと変色するものか?」


『……』


 そしてもう一人……俺には心当たりがあった。

 思い出した。が正しいけどさ、それでも手掛かりにはなるはずだ。


「おしっ、会いに行くか」


 もう一人、紫色の瞳を持つ人物がいる。

 この村に……住んでいるんだ。


「俺がここにいる事は……気付いてるはずだよな、あのポンコツ女神」


 そう……【女神アイズレーン】。

 あのポンコツ汚部屋の駄女神が、紫色の瞳を持っているんだ。

 だから俺は意を決して、明日の早朝……あの女神の家に行くことにしたのだった。

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