6-39【帰ってきたよ4】



◇帰ってきたよ4◇


 【豊穣の村アイズレーン】……新規宿屋、【豊穣亭ほうじょうてい】。

 二ヶ月ほど前に完成した、国内外のお客様が宿泊できる宿屋だ。

 責任者は、村長夫人でありミオの母……レギン。

 そして一番の働き者、看板娘である……アイシアだ。


 この宿は、【ステラダ】……【リードンセルク王国】からの客は勿論もちろん、最近は自国である【サディオーラス帝国】からの客も多数おとずれ始めたことで、元々あったボロ宿では回らなくなった結果……ミオが外観だけを建ててそのままにしていた建造物を、村中の人手で完成させたものだった。


「おばさんっ……これ、置きますね!」


 アイシア・ロクッサ。

 忙しさに目を回す事も無く、せっせと働く健康体。

 活力のある元気印、太陽のように明るい笑顔と、その笑顔によく合うオレンジ色の髪。

 働くことに関しては充実感を得ているであろうこの少女、まさか最愛の幼馴染が帰郷している事など露知つゆしらず、食事が乗せられたトレーをテーブルに運ぶ。


「はーい、次はあっちをお願いねー!」


「了解でーす!」


 汗を拭きながら、アイシアは厨房ちょうぼうへ。


「【テイオア】からの団体さん……食事量が凄いから、運ぶ量も凄いぃぃ!」


 【テイオア】とは、【豊穣の村アイズレーン】から西に行った所にある中規模の町である。

 距離的には……まぁ遠い。

 それでも、野菜のうわさを聞きつけた商人や農家などが、長旅をしてまで来てくれたのだ。

 それがミオの家であることが嬉しすぎて、アイシアは夢中で仕事をしていた。


「……ほい!ほいっ!ほーっい!」


 タン!タン!タタン!!


 小気味よく包丁を叩いて、野菜を切る。

 そこに、裏の勝手口から……侵入者。

 しかし、アイシアは気配で気付いて、その侵入者に言う。


「――今日もつまみ食いしに来たの?ガルちゃん」


 背を向けながら、もう一人の幼馴染……ガルス・レダンに。


「げっ……な、なんで分かったんだよアイシア……」


「分かるよ――視えたもん・・・・・


「はぁ??」


 勝手口から入って来て、アイシアの顔をのぞくガルス。

 いぶかしむように、ジト目でアイシアを見る。


「なぁにその顔、いつもの事じゃない」


「うっ……そ、そうか……予測されたのかよ」


「ふふっ、ほら……あそこにあるよ。お腹空いたんでしょ?」


「おお、助か――じゃない!!違うってアイシア、今日は違うんだ!」


 ついいつものノリで返してしまったガルスだが、今日だけは違うのだ。


「はい?なにが?」


 きょとんとするアイシアに、ガルスはその言葉を掛ける。

 調理台に肘を着いて、何故か偉そうに。


「――帰ってきたよ、あいつが」


「……!」


 それだけで、さっしがついた。

 帰ってきたよ……つまりは出て行った人。

 ガルスがあいつと呼べる、春先に外国の学校へ旅立った、二人の幼馴染。


「へへ、その顔が見たかったんだ!」


 おどろきと嬉しさ、突然のその言葉に泣きそうになるアイシアに、ガルスは続けて言う。


「そろそろミオの奴も、レインさんに連れられて家に帰ってるさ……だからアイシアも行こうぜ?俺はおばさんに伝えて来るから、準備な!」


「え、え、え……えぇ!?急!!急だよガルちゃん!」


 仕事な以上、途中で投げ出すわけにもいかないアイシアは、急いで調理を開始して……全ての仕事を早急に終わらせ、ミオの母レギンと共に……スクルーズ家へ向かうのだった。

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