6-38.5【少女の決断2】



◇少女の決断2◇


 ミオが【竜人ドラグニア】の少女を連れ帰郷し、盛大(個人的)な歓迎を受けている頃……【ステラダ】でも、ミーティアが冒険者学校側への説明を終えて、寮へ戻ろうとしていた。


「疲れた……でも、一応の説明は出来たわね。とりあえず今日の所はトレイダ・スタイニーの姿で寮に戻って……後は会議次第。罰はあるだろうけど、退学にはならない……か」


 教官たちの言葉を思い出しつつ、疲労とプレッシャーで胃をキリキリさせるミーティアは、トボトボと一人寮へ戻っていたのだが……そこへ。


「――お嬢様!!」


「!!」


 歩くミーティアへ声を掛ける、凛とした声が。

 ミーティアもそれに直ぐ気付き、そちらへ向く。


 聞き間違える訳はない……産まれた時から一緒にいて、両親よりも長い時間を共にした、大切な人――ジルリーネ・ランドグリーズ。


「……ジルリーネ」


 急いで来たのだろう。

 ジルリーネは、大粒の汗を流しミーティアを見ていた。


「ウェーデントに聞きました……どういう事ですか、説明を……説明をしてください」


「聞いた……?ああ、そう……」


 ミーティアはさっする。

 教官の中にいたエルフの女性……あの人が、確かケイト・ウェーデントさん。

 魔法の道具を使ってジルリーネに教えたんだろう。説明のタイミングで少し席を外すこともあったし、その時だろうと推測すいそくできた。


「トレイダ・スタイニーを止める。これでは、旦那様の手回しが台無しです……時間も労力も、お金もかかっているのですよ?何故急に……わたしに相談もなくっ」


「……」


 自分の手間を言わない辺り、やはり信はダンドルフにあるのだろう。

 ミーティアがトレイダとして冒険者学校に通う際の手間は、基本的にジルリーネが手配したものだった……ジルリーネの母親であるエルフ族の女王陛下が、冒険者学校の理事長だからだ。

 しかし、教官たちが述べた“【クロスヴァーデン商会】が資金提供”をしていると言うのも事実。


 どう話すべきか。

 きっかけはミオだ。しかし、ミーティアはそれを言うつもりはない。

 決めたのは自分であり、アシストしてくれたミオを首謀者のようには言いたくない。


「お嬢様――っ!!」


「……喫茶店にでも行きましょう、そこで話すわ……全部、これまでの事を……これからの事を」


 目を合わせず、ミーティアは歩き出す。

 ここから一番近い喫茶店まで向かい……ジルリーネに、これからの事を話す。

 未来の事を、夢の事を、恋の事を。


 包み隠さず、おのれの思うままに……全てをぶつける。

 信じて貰う為に、これからも一緒にいられるように。


「……」


 ジルリーネは無言のまま、歩くお嬢様について行く。

 その背からうかがえる気持ちの表れを感じ取り、成長と……決別の意思をさっして。

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