6-35【超越者2】



◇超越者2◇


 普通の人間だったら、どんなに強靭きょうじんでもペシャンコだろう。

 あの大きな魔物……亜獣【アルキレシィ】よりも大きなサイズまでデカくなったハンマーで叩きつけられて、想像しただけでもゾッとする。


「解除だ……ウィズ、周囲の風景を元に戻せるか?」


『可能です。ご主人様がここに到着した時点の状態に戻します』


「頼む」


 俺はウィズにそう言いつつ、解除されたハンマーの跡に向かう。

 よかった……紙のようにペラペラだったら、内心どうしようと思ってた。

 感覚では分かっているけど、実戦だと不安になる。


「……よし、生きてる。マジで頑丈だな、【竜人ドラグニア】」


 あの殺意も無く、少女は眠っている。

 というより、気絶だが。


『――修復完了しました』


 その言葉に合わせて、周りを確認。

 俺がこの子に追いついた時の状態に、完全に戻っていた。

 えぐられた地面も、なぎ倒された木々も、砕かれた大岩も……綺麗に元通り。


「ご苦労さん」


 女の子をかつぎ、歩きながら。


「そう言えば、左腕痛くないな……」


 この子にへし折られた左腕。

 土で応急処置していたが、今は一切の痛みもない。


「ほっ……と!」


 土のギプスを、膝で壊す。

 腕を確認。指をグーパーして、無事だと確認するとウィズが。


『天上人になったことで、回復しました。簡単に言うと、あのダメージではそれ程の痛みを負わなくなったという事です』


「マジか、すげぇな天上人」


『当然です、超越者ですので。本来ならば、勇者や英雄に成るべき存在が……数々の功績を上げ、それから解放される能力……無理矢理目覚めさせた結果、身体には重度の負担が掛けられましたが』


 負担だって?


「いや、どこもなんともないけど?」


 自分の身体を確認するが、どこも痛くないしおかしな所なんて無いけど。


『……――寿命です』


「……」


 あぁ~なるほどね。

 無理くり解放した分、寿命を削ったって事か。


『あまりおどろいていないようですね……ウィズは、怒られる覚悟をしていましたが』


「……まぁな。正直言えば、寿命にこだわりは無いんだよ。二度目の人生だし、前世と同じくらい生きても、合わせて六十年だ。長生きに越した事は無いけど、まぁそうだな……そこまで執着は無いよ。寿命を削って強くなれたのなら、それが最善だっただけの事……死ななくて済んだのなら御の字さ」


 俺がこう考えられるのは……前世での三十年があるから。

 それを超えるくらいまでは生きたいが、そこまでの長生きは望んでいない。

 天族は少しだけ普通の人間よりも長寿なのは知ったけど、大切な家族や好きになった人たち……そいつらと居られるなら、それでいいんだ。


「さてと、ウィズももう分かってるだろうけど……これから向かう所をべて見な?」


『……ここから最も近く、安全であり。この【竜人ドラグニア】の少女を休ませられる場所……つまり、【豊穣の村アイズレーン】……です』


「正解っ」


 少女を抱え直して、俺は歩き出す。

 向かう先は……【豊穣の村アイズレーン】。

 俺の産まれ故郷……実に半年ぶりの、帰郷だ。

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