6-36【帰ってきたよ1】



◇帰ってきたよ1◇


 この子が何故なぜ西南西を目指したのか、それは分からない。

 目を覚まして冷静に会話が出来たとしても、暴走状態だったあの状況でおこなった行動だ、自覚もない可能性が高い。


「もう直ぐだな。体力も増えてる感覚だ、全然楽だぞ……歩くの」


 【豊穣の村アイズレーン】までの距離を、少女を抱えて歩く。

 下手に刺激して意識が戻ったらまた面倒臭いので、【紫電しでん】や【極光きょっこう】での移動はしないでいたのだが、歩きが非常に楽だった。

 これも天上人となったからなのか、体力が倍以上かもしれない。


「見た目の変化は、それほどないと思うけど」


 自分の身体の変化はよく分からない。

 今までがすでにこうだったのだと言われれば、納得してしまいそうなほどの感覚だった。


「それにしても、うへー……村にやぐらまで出来てるな」


 遠くに見えるそれは、物見櫓ものみやぐらだった。

 以前も多少の高さの物はあったが……今俺から見える物は真新しいし、何より何倍も高い。


「周辺範囲の警戒も出来てるんだな……これも支援のおかげか。でも、それも切られる可能性があるっ……と」


 小ジャンして、小さな崖を飛び降りる。

 トンッ――と、簡単に着地し、足の痛みもしびれも無く。


「……マジか」


 見上げてみる。

 小さな崖かと思ったら、まぁまぁな高さだった。

 それなのに何の不自由も無く着地できた事に、自分でおどろいた。


『身体能力は以前の数倍です。魔力も二倍以上は上昇していますので、そう簡単には魔力切れにはならないでしょう――余程の相手でなければ』


 チート能力よりもチートしてんじゃん、【超越ちょうえつ】。

 いや……でも、それも【叡智えいち】とか言う能力のおかげなんだろうな。


「あの時、アレ以外に方法ってあったか?」


『――多少は。【破壊はかい】で攻撃するか、【煉華れんげ】で最大級に焼き払えば……ご主人様が死ぬことはありませんでした』


「その代わりに、この子が死んでいた。だろ?」


『――はい』


 それじゃあ、何の意味もないからな。

 まだ名前も知らない女の子を、こんな辺鄙へんぴな場所で死なせられるかよ。


「そろそろ着くな。ん?……お?あれって、もしかして」


 つらつらとしゃべりながら歩き、見慣れた道に出ると。

 見慣れない建造物を発見した……それは。


「まさか関所……か??」


 俺が村を出る時は無かった。

 ここ半年で出来たんだな、やるじゃないか。


「――と、止まれ!そこの悪そうな男っ……。……。……って!!ミオ!?」


 関所で門番をしていた少年が、俺を見て通行を止める。

 しかし直ぐに気付く、その人物が知り合いだと。


「おいおい、久しぶりの幼馴染を悪そうな男って、酷いんじゃないの?――ガルスさぁ」


「ミ、ミオォォォォォォ!!」


 半年ぶりに見た幼馴染の一人、ガルス・レダン。

 まさかの俺の帰郷に、目を見開いて近寄って来るその明るい笑顔を見て、何とも言えない事を叫ばれたのも忘れ……はしないが、気持ちが緩くなる俺だった。

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