6-34【超越者1】



◇超越者1◇


 天上人……世界を三分する種族、天族の上位種であり。

 天使にもっとも近しい存在であり……その昔は天界に住む人間としてあがめられていた。


 今までとは、魔力の質も……身体の動きも、思考スピードまでもが……別次元だ。

 天族から天上人、簡単に言えばクラスチェンジだ。

 本来ならば、数々の条件を満たした者だけが、【超越ちょうえつ】と言う能力を得ると言う。


 しかし俺は、チート能力【叡智えいち】に無理矢理目覚めさせた。

 言わば不正行為……でも、そんな事は関係無い。

 ここはゲームの世界じゃない、一歩間違えば即死亡するような……異世界なんだ。


「【無限むげん】――」


 もう、名前も必要ない。


 俺は地面を隆起りゅうきさせ、少女を宙に放り投げた。

 そして迫り上げた地面は、粒子りゅうしとなって消え去る……


 空中でジタバタと、少女は藻搔もがくが。

 魔力の低下で、姿勢を正す事すら出来ない。


 あの一撃で決められなかった事で、この戦いは終わったようなものなんだ。

 もしもあの状況にならなければ、【超越ちょうえつ】なんて能力を得ることは無かったかもしれない。

 そういう意味では、途轍とてつもなく強い種族、【竜人ドラグニア】の少女に感謝だ。


「ウッ……ウァ……」


「傷つけないように、意識だけを狩るっ!」


 今更な感じもするが、これ以上はダメージを与えたくない。

 どんなに強くても、女の子だし。


「【石の弾丸ストーンバレット】……連射だ!!」


 落下してくる少女に、俺は地面に落ちている無数の石を操作して、上空に飛ばす。

 一つずつではなく、同時にだ。

 【超越ちょうえつ】した事で、俺のキャパが上昇して……難なく【無限むげん】の同時併用が可能になっていたのだ。


「ウィズ、あの子の体力は持つよな!?」


『はい。威力は最小限に留めました……ですので物量で調整して――決めます!』


 素材はいくらでも落ちている。

 それに加えて、少女が破壊してくれた大岩が……石を増やしてくれていたからな。


「豆鉄砲でも、当たり続ければってな!」


 分かりやすく言えば、ダメージは1だろう。

 でもヒット数はありえない数だ……調整にしては充分、俺は魔力を消費するだけだし、ウィズが全て調整してくれる。

 なるべく早く気絶してくれよ、痛いだけだからな?


「ウッ、アアッ……アアァッ――イ、タイ……ィ」


 下方から撃ち続けられる石の弾丸に、落下も出来ずに空中でダメージを重ねる少女。

 その小さな口からは苦悶の声を漏らすが……意識はまだある。

 さすがに頑丈なんだな――ならっ……一気に!!


『多少強引な手を使っても、死にはしません』


「ああ、俺にももう理解できる……どれほどのダメージを与えれば死ぬか、耐えるか……【竜人ドラグニア】が異常に強い事も、【超越ちょうえつ】がヤバい能力だって事も!」


 上空に舞い上がった【石の弾丸ストーンバレット】、当たらずに飛んで行ったものも……再度【無限むげん】で再構成をさせる。

 その石を上方で全て結合させて、大きなハンマーを作り出した。


「悪く思うなよ、暴れたお仕置きだっ……【岩の大槌ロックハンマー】!」


 空中で作り上げた大きなハンマーを、そのまま落下させる。

 ゴゴゴゴゴ……と風を斬りながら、少女の背に直撃し……逃げ場もない状態で地面に突撃。


「ウィズ、落ちる地面の操作……対衝撃値を修正、一撃で気絶するくらいのあたいにしてくれ。それと――」


『周囲の被害ですね。もうやっています』


 大岩のごとき大きなハンマーだ。

 その衝撃も音も、異常だろう。

 周囲の地面を操作して、衝撃と音を吸収する様に頼もうとしたが、さすが【叡智えいち】さんだ。


 そして、少女を巻き込んで……【岩の大槌ロックハンマー】を地面に叩きこんだ。

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