6-32【竜の血族6】



◇竜の血族6◇


 ズガガガガガガガガ――……。……。……――ドンッ!!


 地面をえぐり、木々をなぎ倒し……俺は大岩に激突した。

 ウィズが、【無限むげん】で数々の障害物を変化してくれたおかげで、即死は免れたようだ……だけど、俺は。


「……がはっっ!」


 血を吐いた。


 くそ……死ぬかと思った。

 何が起きたのか、理解が追い付く前に衝撃が襲って来た……かなりのダメージを受けた事だけは分かるし、この状況がマズいのも分かる。


「えぐいんだよっ……【竜人ドラグニア】……っ!」


 無理矢理立ち上がり、血をぬぐう。


 あの咆哮ハウル……魔物のものよりも強力だ。

 普通のものは、威嚇いかくしたりひるませたりする程度だろう。

 だが……この咆哮ハウルは、別次元だ。


『魔力を帯びている事で、物理的な衝撃波を発生させたようです』


「げほっ……そうみたいだな、助かったよウィズ」


 あの一瞬だ……意識が飛んだほんの一瞬、そのたった一秒の時間で、俺は何も出来ないまま吹き飛ばされた。

 ウィズがいなかったら、死んでるっての。


「……あの子は」


『来ますっ』


 くそっ……完全に俺を敵と見たか。

 俺は痛む身体を無理矢理、加速させる。

 【紫電しでん】で移動するが、つい今まで俺がいた場所に、大穴が開いた。


 ドォォーーーーンッッ――!!


「速えって!!」


 女の子の一撃は、大岩をも吹き飛ばして、大地をえぐっていた。

 これが、マジもんの殺意だ……人の持つ、一番触れてはいけないもの。


「ウゥアァ――」


咆哮ハウル来ますっ』


「分かってるっ!!【カラドボルグ】っっ!!」


 加減なんてしてられるかっ!本気マジにならなきゃこっちが死ぬ!

 俺は黄金の刀身を持つ大剣を取り出し、【ミストルティン】をしまう。

 ベルト部分にしまい、いつでも使えるようにして。


「多少の手加減じゃ意味ないんだろっ!なら俺も……全力だっ!」


 黄金の大剣は少女に向けられた。

 その先にいる少女はにらむように俺を見る。

 紫色の瞳は……涙を溜めていた。


 それは恐怖か、それとも寂しさか。


『対象の精神レベルが急低下……このまま長期戦に持ち込めば、意識の消失が望めます』


「――その前に俺が持たないっての!」


「ウワァァァァァ!!」


 咆哮ほうこうと共に駆け出す少女。

 確かに少しスピードも落ちた、でも……まだ充分速い!


 一撃目は大振りの爪撃。

 俺はしゃがんで回避し、アッパー斬りを。


「らぁっ!!」


 【紫電しでん】を脚にまとわせ、腕には【極光きょっこう】を。

 左腕は死んでるが、それでもバフは充分かけられている。

 今の一撃なら、大抵の魔物は両断だ。


「――ガァッウ!!」


 ドシュッ――と、手応えのある重み。

 内心「ごめん!!」と思いつつも、俺は振り抜く。

 もう、両断できないとは理解しているんだ、なら……振り切れ!!


「おおおおおおおっ!」


 本来ならば、二分割にされちまう所……しかし【竜人ドラグニア】の少女は【カラドボルグ】の一撃を腹部に受けてなお踏ん張ったのだ、空中で。


「――なん」


「――グァウ!!」


 【カラドボルグ】に張り付いて、両腕で組み付く。

 自身の身体が傷つく事など何も考えずに、少女は【カラドボルグ】の刀身を駆けた。


「――やべぇっ……!!」


 血の気が引いた。


 少女の、【竜人ドラグニア】の力は……転生者である俺のチート能力を遥かに凌駕りょうがしていて、自身の身体をかえりみないその暴虐性に、俺の瞳は……少女の拳を間近に映したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る