6-31【竜の血族5】



◇竜の血族5◇


 世界最強の種族……【竜人ドラグニア】か。

 その実力は計り知れない。こんな小さな女の子で、チート能力で強化された俺の腕をへし折るんだぞ?

 この子の方が転生者で、怪力の能力があるって言われたら納得できそうじゃん。


『――残念ですが、彼女は紛れもないこの世界の住人です』


「強すぎんだろっ……」


 フラフラの状態で、「ウウウ……」と苦しそうに声を漏らす女の子。

 いつこちらに飛んできてもおかしくはないが、様子を見ているのか?


『カウンターに適応しているようです。ご主人様が攻撃、敵意を見せなければ……攻撃はされないかと』


「それじゃあ、あの子はこの先に行っちまうだろっ……!」


『その通りです。目的は不明ですが……故郷に帰りたいのか、暴走しているのか、それとも……あの宝珠オーブを探しているのか――』


 【オリジン・オーブ】!!


「そうかっ!」


 初めから持ってたあの宝珠、あれを探している可能性もある。

 それをこの子に返せば……。……。……。


「――って!!……持って来てねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 そうだった、昨日の夜にベッドの中に隠してそのままだった。


『だらしないですね。クラウお姉さまに似ましたか?』


「うるせっ!……くそっ、こうなりゃ無理やりにでも取り押さえるしかないっ!」


 今いるこの場所から少し進めば、【豊穣の村アイズレーン】だ。

 こんな暴走した子を行かせるわけにはいかない……絶対に、沈静化させねぇと。


「――行くぞウィズ、サポート頼むっ!」


『……はい』


 なんでやる気ねぇんだよ!!ほら行くぞ!


 俺は右手に【極光きょっこう】を最大の魔力で発動する。

 普段は一度発動すると透明になる虹色の光は、最大魔力で発動した事で可視化し、「俺のこの手が光ってうなる」状態に。

 これで、防御面では大丈夫……なはずだ。

 左腕は潰されてしまったが、右腕は守らねば。


「……行くぞ、頼むから大人しくしてくれっ――【紫電しでん】!」


 【紫電しでん】で走り出し、ジグザグ走法でかく乱する。

 女の子の周囲を不規則に、何度も何度も行ったり来たり。

 今度は直線的な手段は使わない、つかまれたらお終いだ。


「ウ、ウウ……ア……」


 それでも、視線で追ってくる。

 付いて来てる……この子の動体視力、ヤバいだろ。


 しかし、ふらついているのも事実……ここまでかき乱せば。


「……アッ……」


 カクン――と、ひざが崩れる。


「今だっ――」


 ウィズ、どこを狙えばいい!?


『【竜人ドラグニア】は全てにおいて頑丈です。全力の打撃でも、死にはしません……ですので、どこでもいいです』


 マジかよ……でも、なら!

 俺は脳内で女の子に謝りつつ、おもくそ蹴り飛ばすことにした。

 本当は蹴りたくなんて無いぞ、女の子だし……幼いし。

 でもやらねば……だろ?


『誰に言ってるか分かりかねますが』


「――世間一般様だよっ!!」


 ふらついた背後から、【紫電しでん】を加速した蹴りを見舞う。


「――ッ!!」


 ドンッッッ――!!


 衝撃波が舞う。

 女の子を中心に、円形状に発生した衝撃波は……周囲の木々を巻き込んだ。


「……た、耐えたぁぁぁぁ!?」


 蹴りは背中に直撃した。

 吹き飛ぶはずの女の子は、足の指を地面にめり込ませて……踏ん張ったのだ。

 そして、蹴りの衝撃は一瞬の判断で受け流され、衝撃波となった。


「マジかよ……もうそればっかだな、今回の俺」


 冷汗を掻きながら、俺は女の子の背を見る。

 背中に直撃した俺の足は、女の子の入院着(背中部分だけ)を消し飛ばしている。

 それでも……背中には傷一つない。


「ウ、ウア……アアアアアアアアアアアアアッ!」


「――くっ……これは……まさかっ」


 耳が……意識が飛ぶ!

 少女の開かれた口からは、超音波のような魔力が発生し……咆哮ハウルとなって、俺に降りかかった。

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