6-30【竜の血族4】



◇竜の血族4◇


 晴天に稲光いなびかりが走る……不思議な光景だ。

 しかもその光は紫にかがやいて、一定の方向に進み続けている。


 ミオの【極光きょっこう】は、長時間の飛行が可能ではない。

 だから直ぐに地上に降りて、今度は障害物を【無限むげん】で排除しつつ、【紫電しでん】の光を地面に走らせた。


『――もう数分で追いつきます。ご準備を』


「言われなくても分かってる!もう俺にもあの子の魔力を感じたっ」


 精神的にも魔力的にも、肉体的にもしんどい……身体がバラバラになりそうだっつの!

 物凄い重力が身体にかかって、世界最速ジェットコースターなんか目じゃないほどの負担だよ。

 【丈夫ますらお】が無ければ、今頃身体は木端微塵こっぱみじん、それに加えて……天族と言う自分の種族だ。

 人間よりも身体能力が高く、頑丈……それがある気がする。気がするだけな。

 実際はよく分からん……天族だって言われても、正直言って実感なんてない。


「――見えた!あの子だっ……!」


 その少女は、入院着を着崩して……フラフラと木々にぶつかっていた。

 あの時はおりに入り、布などでおおい隠していたから、正確な情報が無かったけど……よく見える。


「――待つんだ、君っ!」


「……」


 ジジジジ――ッ!と、地面にブレーキこんが走った。

 俺は女の子の正面に回り込み、立ちふさがる形で現れた。


「落ち着くんだ。俺は敵じゃない……君の――」


「――ウワァァァァァ!!」


 ――!!


「うおっ……とぉ!」


 一閃が、俺の居た場所を切り裂いた。

 女の子が腕を振り抜いたんだと、直ぐに気付くが……


 メキメキ――バキバキバキ……ボギンッ!!

 と、数本の大木が……折れた。


「マジかよ……今のって、衝撃波??」


 あんなの直撃したら、普通の人間は即死だぞ。


「ウウ……ウゥ……ウウッ!」


 フラフラだ……俺が追い付くまでは、物凄いスピードだったはずだけど。

 数値だけで見ていたその面影は、ない。


「冷静になって……って言っても無駄か、なら俺が……この子を傷つけないように……やるしかないっ!」


 俺は【極光きょっこう】を両腕にまとわせ、【紫電しでん】を発動させる……一撃でも入れれば、気絶すると思ったんだ。


 だけど。


 ――ドンッッ!!


「……マジか」


 俺の【紫電しでん】で加速した強烈なパンチを、この子は防いだのだ。

 しかも……片手で。


「ウウウウッ……アアッ!!」


「ぐっ……痛ってぇぇぇ!」


 つかまれたのは俺の左腕だ。

 それを、女の子は思い切り潰しにかかって来た。


 メキメキ……っと、きしみ上げる左腕。


 右腕に【極光きょっこう】の光をはっしながら振るう。

 それに合わせたかのように、女の子は跳躍した。俺の左腕を離して。


「……マジでヤバイ、【竜人ドラグニア】……マジでヤバイ!!」


 感覚のない左腕。

 完全にひしゃげて、プランプランである。


『応急処置をします……地面に手を』


 言われるまま、俺は左腕を地面につける。

 ウィズは【無限むげん】で、急造りなギプスを作ったのだ。

 土で出来たギプスを腕に……俺は口にする。


「どうすっかな……これ」


 魔物相手ではない、人間相手の戦闘。

 しかも相手は年端も行かない女の子……しかし、彼女は――世界最強の種族、【竜人ドラグニア】……竜の血を継ぐと言われる、この世界で最も強靭きょうじんな種族なのだ。

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