6-28【竜の血族2】



◇竜の血族2◇


 【カルバルート医院】に入ると、慌ただしい看護師さんたちが右往左往していた。


「……何かあったのか?」


『医院が通常診察を開始して、まだ数十分です……患者にしては慌ただしすぎます』


 だな……嫌な予感がする。


「――すいません、何かあったんですか?」


 俺は、受付のお姉さんに声をかける。

 昨日もいた人だし、何か分かるかも。


「――あ!昨日の……じ、実は」


「え?」


 受付のお姉さんも俺を覚えてくれていた。

 しかし顔を見るなり、あせったように俺に言う。


「……昨日お預かりした、あの子なのですが」


「は、はい」


 おいおいおい、嫌な予感……まさかの的中ですか?

 受付のお姉さんは続ける。


「昨日の女の子……その、暴れて……逃げてしまって」


「――は……はい!?逃げた!?」


 俺は周りを見渡す。

 診察室の方に目をやると、瓦礫がれきのようなものが散らばっていた。

 考えなくても、壁を破壊したんだろう。


「それで、この慌ただしさですか……」


「はい……申し訳ありません」


「あ、いや……いつ頃ですか?」


 申し訳なさそうにするお姉さんに、俺はあの子が暴れたらしき時間帯を聞く。


「一時間ほど前です……どうやら、部屋の入口で待ち構えていたらしく、入室した瞬間には……襲われたようで」


「襲われたって、平気だったんですか?」


「あ、はい……幸い、看護師に怪我はありませんでした」


「そうですか」


 それだけはよかった。

 でも、そうか……逃げたのか。


『そのまま放置ですか?』


 そうもいかないのが、保護した人間の責任だって。


「院長はどちらに?」


「院長先生は他の患者さんの所です。精神的に不安定な方が入院していて……この騒ぎで混乱してしまって」


「……わかりました」


 やばいな。

 急だったなら、どこに逃げたのかも分からないだろうし。


 探すしか……ないか。




 せめて、壊したところは俺が【無限むげん】で直すとして……怪我人が居なくて良かったよ、これはマジで。


『はい。誰かが怪我をしていたら、あの少女は手配されている所です……壁を壊している時点でおさっしですが』


 それは言うな。


 それにしても、壁が完全に破壊されてるな……拳のあと、かこれ?

 グーパンで殴ったかのような形跡に、俺は顔をしかめる。

 あの小さな女の子が、これをやったという事だからな……【丈夫ますらお】で強化した俺でも、素手で殴り壊すのは難しいんじゃないか?


『可能です。【丈夫ますらお】は常時発動型ですが、繰り返しきたえる事で……素手でも戦えます』


 そうだとしても、素手で壁を殴る機会は来てほしくないね。


「よし……っと、修繕終わりっ!」


「す、すごいですね……お兄さん」

「ありがとうございますっ」


「あー、いえいえ」


 看護師さんに感謝された……うむ、悪くない気分だ。

 でもこれで、少しはあの子のせいで無くなればいいんだけどな。


 俺は医院を出て、外を見渡す。

 探すか……【竜人ドラグニア】の少女を。

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