6-27【竜の血族1】



◇竜の血族1◇


 ミーティアと分かれて、俺は寮を出た。

 外は秋だと言うのに、まだまだ暑い……歩きはきついよなぁ。

 かと言って、空を飛ぶわけにもいかない……街中だしな。


「さてと、【カルバルート医院】に行くか。あの女の子……暴れたりしてないだろうな……」


 治療の際に暴れたらしいからな。

 そのせいの高額治療費だ……そりゃミーティアもへこむわな。


『――素材を売却すれば一瞬です』


「……うおっ!」


 なんだよ、ウィズ……いきなりだな。

 つーか、よくここまで口出ししなかったな、珍しい。


『ご主人様の言う、“空気を読む”を実行したまでです』


 なるほど、偉いじゃん。


『当然です、何せ――』


「はいはい、【叡智えいち】【叡智えいち】……それよりも、俺の行動、どうだったかな?自分なりに考えていた事を、ティアにそのまま伝えたよ」


 俺は、朝早い事で人が少ないのを理由に、口頭でウィズと会話をする。

 歩きで【カルバルート医院】に向かう道中、歩きのおともには良い。


『――ご主人様がミーティア・クロスヴァーデンと一緒に居たいと言う思いを前提ぜんていに考えれば、最善だったと思います。彼女は、ご主人様に依存気味でした……流れに身を任せるのは悪い事ではありませんが、誰かが何とかしてくれる……そんな考えがあったのでしょう。そう思えば、決別は大きなきっかけになります、家族と、未来永劫に確執を持つわけではありません……それをご主人様も考えているからこそ、ミーティア・クロスヴァーデンに覚悟を持たせたのでしょう』


 お、おう……今日はやけに饒舌じょうぜつじゃないか、ウィズ。

 もしかして、しばらく黙ってたせいでストレスたまってる?


『??……ウィズにストレスはありませんが』


「そ、そうか……ならいいけど。でも、ウィズの言う通りだ……ティアの行動は多分、不安からくる安定性を求めた結果だと思うんだ。不安は誰にでもあるけどさ……ティアの場合、お嬢様だってのが重要だろ?家に迷惑はかけられない、誰かに迷惑はかけられない……そういう考えを持っているから、大胆に行動できない。勿論もちろん、スムーズに事が進めばそれでもいいんだ……あの子は、狭い範囲での出来る事しかしてこなかったんだよ」


 ミーティアが選んできた選択肢は、全部目に見えるものだけだ。

 だけど、俺が選択させたものは……目では見れない、はるか遠くにあるようなものだ。


『その答えが……家との決別、ですか。あのしたたかなダンドルフ・クロスヴァーデンが、そう上手くいかせるとは思えませんが』


「平気だ。ティアの夢は自分の店を持つこと……本当の事を言えば、【クロスヴァーデン商会】と同じくらいの商会なんて、何年かかるか分からないだろ?」


『その通りです。ミーティア・クロスヴァーデンは、事業を始めるに重要なものを、何一つ持っていません』


 事業を始めるには、人手、金、場所……そして信頼だ。

 店を出すにしても、家を離れるならゼロの状態からになる。

 ミーティアは、何も残らない状況からのスタートになる……せいぜい、俺が味方にいるくらいだな。


「でも、それだけで充分なんだ」

『しかし、それが大きな武器です』


 お。ウィズと言葉が被るなんて、珍しいな。

 だけど、それがやけに自信になる……俺の考えは間違っていなかったんだと、確信を持てるからな。


 俺は自然と笑みを浮かべながら歩き……いつの間にか目的地に到着していた。

 さて、口にするのはここまでだ。


 【竜人ドラグニア】の女の子……あの子に、会いに行こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る