6-26【これも一つの別れ】



◇これも一つの別れ◇


 朝だ……外では小鳥が鳴いている。

 そして俺の隣では、一人の女の子が……


 ……


 ……


 ――って!!んな訳ねぇだろ!!

 普通に別々だよ!甘い展開なんて一切ないっつの!

 それに、俺は彼女を大切にしたい……その決断を決めた直後に、そんな行為に走るような男にはなれないさ。


「……あれ、ティア?」


 俺がベッドから起き上がると、隣のベッドにいるはずのミーティアが居なかった。

 しかし、鼻に香るこの匂い……紅茶だ。


「もう起きてたんだね」


「――あ、ミオ……うん。おはよう」


「おはよ。寝られなかった?」


 あれだけの事を言われて、しかもその後の甘い空気。

 興奮こうふんして眠れなかったのは、俺だけじゃなかったみたいだ。


「え?ううん、寝たわよ?普通に起きただけだけど……」


 あ、あれ……?そうなの?


「い、意外と冷静なんだな……流石さすが


 俺だけかよ。恥ずかしいじゃないか。


「ふふっ……年上ですから。でも、寝ながら色々と考え事はしてたわ。そのせいかな、早起きしたのは」


「……考え事?」


 もしかして、気持ちが揺らいだか?


 そんな俺の視線を感じたのか、ミーティアは。


「あ、違うよ?ほら、やる事も沢山増えて……でもそうしたら、ここにも居られなくなりそうだし……ね」


「……ここ?」


 この寮に……あ、そうか。


「冒険者学校に融通を利かせてもらったのは、父の口伝くちづてがあったからなの……でも、お父様と決別すると言う事は」


「かもな。男子寮ここには……居られなくなる可能性が高いか。トレイダとして通う事も、おそらく」


「ええ。多分……不可能でしょう」


 なるほど、ミーティアはそれを考えていたのか。

 ダンドルフ会長と、この冒険者学校の偉い人……理事長とかさ、その人たちとのありがた~いお言葉があったから、ミーティアはトレイダ・スタイニーとして男子寮に居られたんだ。

 それを、俺の言葉でくつがえしたんだ……一つの決断と共に、一つの別れも、同時に来たという事か。


「じゃあ、学校はどうする?……ティアが辞めるなら、俺も――」


 別に、俺にとっては冒険者になるのが全てじゃないからな。

 ライセンスさえ取れてしまえば、ここでドロップアウトしてもそこまでのダメージじゃない。


「――大丈夫よ、そこまで考えないで?……それにほら、ミーティア・クロスヴァーデンとしては通えるから」


「あ……そうか」


 そうだった。

 ミーティア・クロスヴァーデンとしての方が、正式な冒険者学校へ通う生徒の名前なんだ。


「そうだったな……半年一緒にいて、トレイダに慣れ過ぎてたよ」


「ふふふ、でも……そうなるとやっぱり、男子寮にはいられないから。女子寮に行くことになるかも、それが普通なんだけどね……あはは……」


 自嘲じちょう気味に笑う。

 自分が強引な手を使っていた事に、少し反省しているらしい。


「それじゃあ、早い方がいいかもな」


「そうね。それを考えてた……早速、今日掛け合ってみるわ」


 それがいいんだろうな……俺は病院にあの子を引き取りに行くとして、ミーティアは学校のお偉いさんの所?に行くのだろう。

 俺も行った方がいいのだろうか……でも、あの子の事もあるしな……


「ミオ。今日は病院に行くのでしょう?私のことは気にしないでね、自分でやれるから……」


「……助かる。あの子をどうするかは、話してみないと分かんないけど、扱いが扱いらしいからな……色々とやって見るさ」


 行動あるのみ。

 俺とミーティアの本当の相棒生活は、これから始まるんだ。

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