6-25【涙《ティア》】



ティア


 ゆっくりと、身体を離す。

 充分な言葉を貰えた……聞きたい言葉も聞けた。

 その思いに、俺は答えるさ……ミーティアの分岐点は、俺の決意の表れでもあるんだ。


「……ほら、涙拭いて。可愛い顔が台無しだぜ?」


「――もうっ、私の方が年上なのにっ!」


 ぐすっ、ぐすっと鼻をすすり。

 赤くらした、目と鼻。

 緊張感が一気に解放されて、ミーティアは膝から崩れた。


「あっ……」


「おっ……と!」


 ガッ――と支えて、その顔をのぞく。

 真っ赤だ……耳まで。


「……ミオ。私……決めたわ、覚悟」


「戦う覚悟?」


 俺が言った、捨てる覚悟戦う覚悟は……言わばミーティアの考えを聞き出す方便だった訳だが。

 でも、ミーティアがそれを決めたなら……共に行くと決めた俺が、否定するわけにはいかない。


「ええ……私は、家を出る……お父様と、戦う」


 簡単に許される事ではない、それは俺も分かってる。

 俺が決めさせた、ミーティアの覚悟。

 家族との決別は、俺にも経験がある……前世の俺は、家族を捨てたんだ。


「助言してやるよ、沢山……経験があるからなっ」


 ニッと笑いながら、ミーティアの頭を撫でる。

 サラサラの青い髪に光が反射して、とても綺麗で……青い瞳には涙がまだまだ溜まってて、それが綺麗にかがやいている。


「なにそれ、年下のくせにぃっ」


 トン――と、胸に頭突き。

 俺の腰に手を回して、震える。


 そうだよな……決めたとはいえ、それはこれからだ。

 しかも、今すぐに言いに行ける状況じゃない。


「なぁ。ミーティアって呼ぶの……止めていい?」


 決別には決別を。

 俺は今から……この子を――異性として、女として見る。


「名前をやめるって、事??」


「あははっ、違う違う……ミーティアの名前まで捨てろなんて言わないよっ」


 戸惑とまどいを見せる涙声に、思わず笑ってしまう。


「じゃあ……なに?」


「俺が呼びたいんだ……そうだな……ミーティア、ミーティア」


 何かいい呼び方……ミーティアか。

 ちゃん付け?いや違うな……絶対違う。


 考えていると、ミーティアの瞳から……しずくこぼれた。

 そしてその一滴ひとしずくが……決定的だった。


 俺は、頬を伝うその一滴ひとしずくを指ですくい。


「――ティア」


 ミーティアから少し取っただけだけど、それでも……今のこの心境を、凄く表しているんじゃないかと思った。

 ティア……俺は、今日から彼女をそう呼ぼう。


「どうかな、ティアって……あれ?」


 ボッ――!!


 俺を見上げるその顔は、夕日のように赤かった。

 炎が噴き出るような、そんなティアの顔は……俺の記憶に一生残るだろう。

 共に歩くことを決めた俺の、そんな覚悟……そしてその覚悟を、俺はもう一人の女の子に……伝えなくてはいけないんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る