6-23【君の分岐点2】



◇君の分岐点2◇


 俺は、嫌な選択を迫っている。

 家を、家族を……捨てられるかと聞いているんだ。

 最低だよ。分かってる。それでも、これが最良な選択だと思うんだ。


 貴族でも何でもない俺に出来ることは少ない。

 あの男とも確執かくしつが出来る可能性もある。

 だけどなミーティア、俺は……本気で言ってる。

 それはもう、君も気付いているだろ?


「……私は」


 顔色が悪い……青い瞳が涙でれる。

 想像したんだろう、家族との別れを……決別を。


「今すぐじゃなくてもいい、俺みたいな年下のガキにそんな事を言われて、腹も立つだろ。なんでそんな事まで言われなくちゃいけないんだって、思うはずだ……」


「そんな……事」


「いや、ある。それが普通なんだよ……俺は確かに年下だ、十八になったミーティアからすれば、充分ガキだよ――」


 俺はミーティアがれてくれた紅茶を一気に飲み。

 カチャリとカップを置いて……言う。


「でも、言えるんだ……年齢、それをおぎなうほどの、知識と経験があるんだって、ハッキリと言える。それが俺の、俺にだけが出来る事だ」


 若い年齢を補うもの……それは前世の知識であり、前世の経験だ。

 恋愛経験だけはどうにもならないが、それでも助言は出来る。


「言ったろ?捨てる覚悟……あるかって、戦う覚悟……あるかってさ」


「……どういう、事なの?」


 俺は椅子を引いて立ち上がる。

 覚悟を決めるのは、別にミーティアだけじゃない。


 俺もだ。


「ミーティア、君の夢は……なんだい?」


「え?ゆ、夢……?」


 唐突に思えるかな……でも、これが全てだ。

 もし、君が――“ミオのお嫁さん”なんて言えば……俺は君を救えない。

 初めて会った頃の君の、君の夢を……聞かせてくれ。


「そう、夢だ……ミーティアの夢。思い出してくれ」


「私の、夢は……」


 ミーティアは胸に手を当てる。

 ギュッと拳をにぎり、深い所で眠っていた夢を――野心を。


「私は――自分の店を持ちたい。お父様が作った【クロスヴァーデン商会】よりも大きく、立派な……私のっ!!」


 そうだ。

 君は昔から、野心を持った子だった……そして俺は、そんな夢や野心を持った子に、かれたんだ。


「戦うって言ったのは、別に喧嘩けんかしろって事じゃない……ミーティアの夢で、戦えばいいんだ。捨てるって言ったのは、別に縁を切るって言ってるんじゃない……過程かていの話だよ」


過程かてい?」


 そう、過程かていだ。

 全てを上手く丸く収めることは出来ないだろう……でも、最低限の事は出来る。


「ああ。ミーティア……君の夢と野心が本物なら、戦うんだ。君が商会を立ち上げて、【クロスヴァーデン商会】を……倒せっ!」


「――!!」


 この国で一番の商会……【クロスヴァーデン商会】。

 それを経済的にブッ倒す事が出来れば、父親の上を行ければ……話は別だ。

 上手くいくとは限らない、それは違うと、ガン無視される事だってあり得る。


「自分の未来、自分の夢……つかみ取るのは君だ。他人任せの人生に従って、理不尽な結婚なんてしようものなら……俺が変えてやるよ!俺がしるしてやる、俺が手を引いてやる……だから、決めてくれ……ミーティア」


 俺は、ミーティアに手を差し出す。

 真っ直ぐな瞳で、想いのありったけを込めて。

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