6-22【君の分岐点1】



◇君の分岐点1◇


 早速、俺は言う。

 もう決めていた事だ……これは、俺の選択。


「ミーティアの今日の態度……俺は気に食わなかったよ」


 ビクリ――と、肩が震える。

 でも、遠慮えんりょはしない……言うんだ。

 嫌われるとか、空気が悪くなるとか……そんな事を言って我慢していたら、ミーティアだって自分で歩いていけなくなる。

 俺におんぶにだっこで一緒に居たって、それはミーティアの選択じゃない。


 それは、別に恋とか愛の話じゃなくて……一人の人間としての、人生の選択の話だ。


「……アレックス、さんが……ミーティアの結婚相手。それは考えれば分かるよ。時代……じゃなくて、世間的に考えれば、国で一番の商人の娘だ……見合い話だってたくさん来るだろう。それこそ、ああいう貴族の人との、さ」


「……うん」


 うつむき気味なミーティアだけど、俺は続ける。

 逸らすな……目を背けるな……今ここで逃げたら、君は前に進めないぞ、ミーティア。


「ミーティア。単刀直入に言うぞ……」


 俺の声のトーンで、ミーティアも俺を見る。

 逸らさず、真剣に。

 そう……それでいい。


「――ミーティアが結婚するまでの後……一年半、その約束……あるだろ?」


「……そう、ね……残り、もうそれしかない。でも、それが何?」


 その話題を出すとは思わなかったのか、ミーティアは不思議ふしぎそうな顔で聞いてくる。

 だから言おうと思う。


「その約束――ミーティアは反故ほごにする覚悟はあるか?」


「……え?」


 それは、約束を破るという事だ。

 不条理な条件である事は、誰から見ても明白な……その条件。

 一人の女の子に課していい約束にしては、重いんだ。


 勿論もちろん、この世界観では常識なのかもしれないし……中世では普通にある事だ。

 それは俺も、前世からの知識で知っているさ……だから、その知識を持っている俺にしか出来ない事で、言葉だ。


「どうだ?会長さんとの、お父さんとのあの約束……ミーティアはそれを破って、戦うつもりはあるか?」


「戦うって……ど、どうして……そんな事」


 戸惑とまどってる。分かるよ……俺の気持ちを伝えるって言って、コレだもんな。

 でも、俺は引かないぞ……ミーティア。


「どうなんだミーティア。成人までに俺を振り向かせられなかったら……そんなクソみたいな約束、破るつもりはあるか」


「わ、私は……」


 【リードンセルク王国】の大商会、【クロスヴァーデン商会】の息女であり、

唯一の跡継あとつぎだ……そんな女の子が、成人までに好きな男を振り向かせなかったら……なんて約束、もう一つに決まってる。

 あの優男……アレックス・ライグザール。

 あいつと、結婚させられるんだ。


 ミーティアはうつむき、考える。

 即決は出来ないだろう……当然だ。

 でも、決断してもらう……それが、俺の身勝手な考えだ。


「分かるよ、直ぐに返事は出来ない。当然だ……【クロスヴァーデン商会】って大きな組織が、君の居場所だったんだ……俺は、それを捨てられるか?って聞いてるんだからな」


「……っ」


 苦しそうに眉を寄せて、瞳をギュッと閉じる。

 ごめんなミーティア……今まで、こんな事言ったこと無かったもんな。

 でも、続けるから……君の選択の幅を広げて、生きて貰う為に。

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