6-17【時間が許す限り】



◇時間が許す限り◇


 ミーティアはうつむいたまま、隠そうとしていた事実を俺に伝える。

 苦しかっただろう、迷っただろう。

 それでも、心に決めて言ってくれた。


 だから俺も、想いを伝えないと。


「――ミーティア、俺は……」


 俺は立ち上がり、ミーティアを見ようとした。

 しかしそこで気付く……ここは、病院だ。


「あ……」


 なんて身内事の会話をしていたのだろう。

 言わばおおやけの場、看護師や他の患者も……廊下ろうかで聞いていた可能性もある。


 やっちまった……


「ミオ……?」


 俺は再度、椅子に座る。

 ここではこれ以上話せない。

 院内の皆々様へ、多大なご迷惑だ。


「ごめん。話の続きは寮に帰ってからしよう……きちんと、俺も言うから。俺の気持ちを、俺の思いを」


 俺は待合室の入口を指差す。

 ちょいちょい、と……するとタイミングよく。


「――お待たせしました。クロスヴァーデンさま……患者様の治療が完了しましたので……その……」


 その反応……聞いてたな看護師さん。


「す、すみません、ありがとうございますっ」


 俺とミーティアは立ち上がり、案内される。

 看護師さん、微妙びみょうな顔をしてたな……多分、もう少し早いタイミングで治療は終わってたんだ。

 俺たちを呼びに来て、聞こえて来たんだろうな……ミーティアの言葉が。

 そりゃあ入りにくい、結婚とかどうとか……重すぎる。


「ご迷惑をお掛けしました……」


「い、いえ……でも、出来れば自宅でお願いします。他の患者様もいらっしゃるので」


 ごもっともです、すみません。


「「す、すみません」」


 そうして、一旦この話は中断される。

 でも、ミーティアの思いは聞けた……あのアレックスって人との関係は。


 ――時間が許す限り、考えるしかない。

 俺が同情せず、最善を選択できるように。

 その条件の第一が……貴族、だな。





 案内された病室には、他の患者は居なかった。

 個室ではないが、特別に入れてもらった感じかな。


「眠って、る?」


「治療の際に、睡眠効果のある道具を使わせて頂きました……その、少し混乱して、暴れてしまったもので」


 暴れた……?この子が?

 今は安らかな顔で眠っているように見えるけど……睡眠効果持ちの魔法道具を使うほどに暴れたのか。


「……え!」


「ん?」


 俺が振り向くと、ミーティアが看護師さんから紙を渡されていた。

 あれだ、請求書的な。

 それを見ておどろいているって事は……金額ですかねぇ?


「へ、平気です……払いますので」


 笑顔が引きつっている。

 先程までの空気が一変だ。


「ミ、ミーティア……支払いは俺が」


「いいえっ、ここは私が……ミオは、先生のお話しを聞いて」


 だ、大丈夫かよ……でも、そうだな。


「悪い。後でな」


 俺は両手を合わせてミーティアに言う。

 ミーティアは「うん」と笑顔を見せて、看護師さんに連れられて行った。

 さてと、先生の話を聞きますか……きっと、この女の子の話なんだろう。

 アレックスも言ってたもんな……それらしい事をさ。




―――――――――――――――――――――――

 この展開の決着は……part25で。

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