6-18【少女の正体】



◇少女の正体◇


 すぅすぅと寝息を立てるその幼い少女。

 地下で見たおびえるような表情は無く、魔法の道具によって、深い眠りに安らかな顔をして眠っている。


「おやおや。君は確か数年前に……誰じゃったか」


 この病院の医院長、ボノバ・カルバルート先生。

 ジェイル・グランシャリオとの戦いで傷付いた俺を、治療してくれた人だ。


 それにしても。


「お久しぶりです。何年か前に入院してました……」


「おお、そうじゃったか……どうりで見覚えがあると。君がこの娘を?」


「あ、はい」


 見覚え?本当かよ、怪しすぎるこのじいさん。


「それにしても珍しいものじゃ、まさかこの国でなぁ」


「え?この子の事ですか?」


 俺は見舞い客用の椅子に座り、カルテを持つじいさん先生の言葉を聞く。


「色々調べたが……この娘の外傷はほとんど回復しておるよ。見た目では傷付いているように見えるがのう」


 包帯やガーゼを全身に巻かれて、ボロボロに見えるんだが。

 外傷……つまりはここに連れてくるまでに見えていた傷が、もう治ってるって言いたいのか?


「ん?……じゃあこの包帯は?」


「意味ないのう……」


 おいこら。


「だったらなんで……そんな意味のない事を」


 呆れ気味に、俺はじいさん先生に聞く。

 するとじいさん先生は、神妙に。


「……治療をした後に、急激に回復したからじゃ」


「――え」


 まてよ……この世界にはまだ、そんな急激に治療する薬は無い筈だ。

 精々、傷薬や魔法薬……それでも、ゲームのように一瞬で回復する手立てはない……だよな?


『その通りです。一部を除き、この世界での傷の治療は……天性の才能か、転生者の能力。どちらかです』


 ウィズが言う。天性と転生がややこしいが、そういう事だ。

 転生者の能力ってのは、クラウ姉さんの【クラウソラス】が持つ光の魔法のようなものや……それ以外もきっとあるんだろう。

 天性の才能……ってのは、きっと魔女や聖女といった、この世界特有の存在が持つものだ。


「じゃあ、この子が自分で直したんですか?」


「そうじゃな……医者もビックリの、自然治癒じゃて」


「自然治癒……」


 魔法じゃない。

 異常なまでの、自然回復って事か。


「……お前さん、超人を知っておるかの?」


「超人……?」


『――魔族で言う、魔人の事です。その種族の中でも大きな力を持つ、選ばれし者。その人間族にあてはめたものが――超人です』


「……この子が、超人って事ですか?」


 じいさん先生はカルテを俺に渡し、そこに書かれた一文を指差し。


「違う。この娘は……それよりももっと珍しい」


 指差された箇所を、ゆっくりと読むと……そこに書かれていたものは。


「――竜人?」


 この秋の始まり、俺とミーティアが最悪な空気の中で出会った小さな女の子は。

 この世界の中でも稀有けうな存在と言う、最小数人種。


 ――【竜人ドラグニア】。


 そう呼ばれる、世界の中でも最強と言われる種族の、女の子だった。

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