6-15【言葉にして1】



◇言葉にして1◇


 待合室に戻ったミーティアは、ハンカチで汗を拭きながら椅子に座った。

 本当に急いだんだな。ここから入口までは距離はないし、病院ってだけに走った汗ではないだろう。

 となると、冷汗だな……あの男との話でか。

 あのアレックスって人も来ていないし、帰ったのか?


「なぁミーティア……色々考えてたって、俺言っただろ?」


「うん……」


「あの人、アレックス……さん?もしかして帰った?」


「あ、うん。騎士団も長くは居れないからって……でも、ミオにもお礼を言ってたわ……【常闇の者イーガス】の構成員を捕まえてくれてありがとう……って」


「そっか。それがあの人の……騎士団の仕事だったっけ」


 そんな事まで頭に入ってなかった……ミーティアの知り合いって事に気を取られ過ぎてたな。


「そうね……それでね、あの人……いえ、あの方のお名前なんだけれど」


「……うん」


 あの方……つまりは目上の人だ。

 立場上、ミーティアは下手な態度が取れなかった理由になる。

 そんな事も推察すいさつできなかったのかよ……俺は。


「あのお方は、アレックス・ライグザール……【リードンセルク王国】の大臣閣下、アリベルディ・ライグザール閣下のご子息で」


「なるほど。そりゃ無下には出来ないな……」


 入学時に一度会ったな……村の野菜がどうとか言ってた記憶がある。

 でも、そんな人の息子とミーティアが知り合いだと言う事は……考えられることはしぼられる。


「あの人は……あの、人は……」


 膝の上で拳をにぎるミーティア。

 ここは、俺が……


『――駄目だめです。ここはミーティア・クロスヴァーデンに言わせなければ、彼女は今後……ずっとご主人様に甘えます』


 ……キツイ事言うね、ウィズ。


 でもそうか……助ける事と背中を押すことは違う。

 助け舟を出すのではなくて、言い出せるように……俺が。


「あの人は……ミーティアとどういう関係?」


 普段通りに、冷静に。

 地下にいる時とは違う……俺の素直な気持ち。

 気にならないと言ったら大きなうそだ。

 でも、それを飲み込んで……ミーティアからの言葉を待とう。


「……」


「……」


 言い出しにくい事。

 それはもう分かったよ、俺も冷静になって……少しだけど考える事が出来た。

 この事実は、きっとミーティアの未来を大きく変える事だ。

 俺には知られたくなかったんだ、その事実を。


「あの……ね」


「うん、いいよ……ゆっくりで」


 甘やかしてる訳じゃない。

 急かしても駄目だめだと思うし、自分のタイミングの方がいいだろ?


「……ミオ、ごめん……私、ずっと言ってなかった事があって」


 頭を下げるミーティア。


「ああ……聞かせてくれるんだね、それを」


 別に謝る事じゃない。

 言えなかったのは理由もあるだろうし、知らないで済むならそれでもいい。

 けど、そうもいかない状況になった……だから、俺は聞かなくちゃならない。


「ええ、全部……話すわ」


 言葉にしなくても伝わる事はある。

 だけど、言葉にして、やっと伝わる事だってあるんだ。

 これからはそうしよう。

 俺も、ミーティアも……同じ時間を生きているんだから。

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