6-13【ミオの裏3】



◇ミオの裏3◇


 女の子を抱えた俺が馬車から降りると、病院の前でアレックスが手を招く。

 ちょいちょいっ……と、こっちだよと言わんばかりに。


「くっそ……なんなんだよアイツっ」


 俺は急いで向かう。

 ミーティアは先に中に入ったのか、入口には居なかった。


「それにしてもミオくん……君は、確か十五歳だったかな?」


「……そうですけど」


 それがなんだよ。


「いや……亜獣を倒し、【常闇の者イーガス】の構成員を捕まえ、そして……その子だ」


「この子?この子が何です?」


 アレックスは俺が抱える女の子を見ながら、指を顎先に当てて観察する。

 あまり見るなよ……幼女だぞ。


「――ミオ、その子のベッド用意して貰えたから、運んでくれる?」


 ミーティアが中から来た。

 どうやら手配してくれていたらしいな。


「分かった、今行く」


 アレックスの言葉も気になるが、俺は院内へ進む。

 数年ぶりに来た病院……【カルバルート医院】。

 ボノバ・カルバルートと言う先生が個人で経営する、個人という割には大きい病院だ。


 中に入ると、ミーティアが看護師さんに。


「それじゃあ、お願いします……今運びますので」


 と、状況を説明してくれている。

 俺はその看護師さんの誘導ゆうどうで、病室へ……現代で言う救急外来だな。


「じゃあ……よろしくお願いします。先生」


「……はいよ」


 先生は良い年齢のおじいちゃんだ、動きがゆるい。

 でも、腕は確かだから安心だ。


「「失礼します」」


 俺はベッドに女の子を寝かせてから、一礼してミーティアと二人で病室を出る。

 簡易的かんいてきな待合室があるので、そこへ向かう。


「……待つだけ、か」


「そうね、それしか出来ないから」


 あれ、そう言えばあの優男は……?


「なぁミーティア、あの人は?」


「え?あれ……そう言えば、病院の中には入って来てないかも」


 病院嫌いとか?いや、まさかな。

 別に来なくてもいいけど、でもそれじゃあ、知り合いであるミーティアからすれば失礼に当たる……それをミーティアも分かっているからか。


「少し見て来るわね……すぐに戻るからっ」


「ああ、待ってる」


 駆け出すミーティア。

 本当に急いでるな……あせっている感じも、まだ残ってる。

 でもそれは、俺もか。





 私が病院の入口に戻ると、アレックスさんが壁に寄りかかっていた。

 何故なぜ入ってこなかったのだろう……


「アレックスさん……あの子の手続き終わりましたけど、どうして中には?」


「ああ、お疲れ様です。いえね……病院、嫌いなんで」


「――え」


 苦笑いをするアレックスさん。

 まさか、そんな子供っぽい理由だとは。


「それにしても……ミオくんは面白いですね。私は嫌われているようですが」


「え、っと……そんな事は?」


 ミオの態度からするに、アレックスさんにとげのある態度を取ったのは私のせいだと思う。

 それを抜きにしても……まぁつんけんしているようには見えたけれど。


「私も大人げなかったですよ、彼はまだ十五歳……言ってしまえば子供だ。でしょう?」


「……」


 年齢的にはそうかもしれないけど……でも、ミオは。


「彼は年相応としそうおうに生きるべきですよ……そうは思いませんか?」


「……そう、ですけど……でも、私は彼と一緒に」


「一緒にいたいとか、好きだとか……そんなくだらない事で、私は結婚を破断にはしませんよ?」


「――っ」


 もしかしたら、アレックスさんは今日……ミオと会えると思ってついて来たんじゃ。

 まさか、今日私を見つけた時には、すでにミオの事を?


「それでも、彼を選ぶと言うのなら……貴女あなたには相当な覚悟が必要です。お家の問題……そして私たち、ライグザール家の問題だ」


 アレックス・ライグザール……貴族であり、【リードンセルク王国このくに】の大臣閣下のご子息。

 結婚が破談になれば、それなりには話題になる……そしてそれは、恥にもなるんだ。


「分かっています……だから慎重に、冷静に――」


「その結果が、あの少年の態度ですね」


「――!」


 ゾクッとした……この人は、試してるんだ。

 私を、そしてミオを。

 言葉で、態度で、そして圧力プレッシャーで……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る