6-12【ミオの裏2】



◇ミオの裏2◇


 ミーティアが口を開き、俺とアレックスは同時にミーティアを見た。

 しかし、その緊張感からかまた口籠る。


「「「……」」」


 この優男……なんでこんな事を言い出したんだ!?

 飄々ひょうひょうとした態度を取って、まるで俺を下に見ている気がする。

 その作ったような笑顔が、やけに腹立たしい!

 きっと誰もがこぞって言いそうな程の好青年、騎士団の団長で……身なりもいいから貴族だろう。

 そんな男が、どうしてド田舎出身の俺にここまであおって来るのか。


 ミーティアと知り合いだから?

 そんなことで、ここまでの態度を取るか?


 いや、それは一旦抜きにして……この男は要注意だ。

 この馬車が向かう先は、【ステラダ】にある大きな病院だ。

 街の南西に位置する場所にあり……俺が数年前に入院した場所。


 ちらりと、俺は再度ミーティアを見る。


 ミーティアは俺とアレックスを交互に見て、戸惑いを見せている。

 どちらかと言えば、アレックスを見ている回数が多い気もする。


『――気のせいです』


 くっ……ミーティアもミーティアなんだよ。

 なんでそんな態度を取るんだ……これじゃあ、俺が疎外感そがいかんだろ。


『――ですから、気のせいで』


 揺れていた馬車が停止している事にも気付かずに、俺とアレックスとか言う騎士団長は見合っていた……にらみ合っていると言われても過言ではない。

 そんな俺とこの人を、心配そうな視線を行き来させるミーティアは、ようやく閉じていた口を開いた。


「ア、アレックスさん……あまりからかわないで下さい」


「ははは、それはすみませんね……」


 作ったかのような笑顔で、ミーティアはアレックスに言葉を掛けた。

 それでもアレックスは変わらず、笑いながら俺を見ている。

 俺も視線を外すことはなく、じろりと見ている。


「え、えぇ……」

(ど、どうしよう……どうしたら……)


 ミーティアが髪と同じような青い顔をしているとも知らず、俺とアレックスはにらみ合いを続けていた。

 と、そこに……なんとも遠慮がちに、馬車を操作していた御者の青年が。


「あ、あの~……着きましたけども……ど、どうしましょうか?」


「――え、あ!すみません!降ります!」


 ミーティアが、「助かった」と言わんばかりに大きな声で答える。

 すると俺も、少しだけど落ち着いた。


 そうだ……今はこのいけ好かない優男に腹を立てている場合ではない。

 別に、見た目が自分に似てるから嫌いって訳じゃないぞ……絶対だ。


「それじゃあ……その子を運ぶのは君に任せようかな?」


「……は?」


 アレックスは、そう言うと馬車を降りる。

 さっきはアンタが運んだじゃねぇか、なんで急に俺なんだよ!

 と、俺は言おうとしたのだが……その前に。


「それじゃあ行きましょうか、ミーティアさん」


「え、いえ、私はミオと――あ、アレックスさん!?」


「――な!ちょっ……あんたっ!……ああ、もうっ!」


 俺の言葉など歯牙しがにもかけず、アレックスはミーティアの手を引いた。

 その瞬間、ミーティアに抱いてしまった嫌な思いはすっ飛んで……この優男に対する苛立いらだちが……確信に変わった気がした。


「よっ……と、ごめんな……君は苦しんでるのに。俺も……しっかりしねぇとっ」


 眠る女の子に一言声をかけて。

 俺も二人に続けて、女の子を抱え馬車を降りるのだった。

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