6-11【ミオの裏1】



◇ミオの裏1◇


 馬車が揺れる……どんよりとした空気に、私は気落ちしていた。

 広めの馬車なのに酸素さんそが非常に薄く感じて、動悸どうきが酷い。


「……」


「……」


「……」


 誰も言葉をはっしない。

 私もミオも、アレックスさんも御者さんも。


 私は、ミオの問いにハッキリと答えられなかった。

 アレックスさんの事をミオに知られたくなかったし、知られなくてもいい事だと思ってたから。


 偶然、警備隊に顔を出していたアレックスさんを始めとする騎士団。

 【常闇の者イーガス】の構成員を捕まえる為に願い出た私は、【幻夢の腕輪】で変身していたにもかかわらず、アレックスさんに気付かれて。

 面白おかしく、同行をすると言い出したアレックスさん。

 騎士団が【ステラダ】に来ていたのも【常闇の者イーガス】の情報を探っていたのだと言うのだ。


 バレていたから仕方なく、わざわざ隠れて変身を解除し、そうして地下に戻った。

 道中、アレックスさんはこう言った。

 「【幻夢の腕輪】は良い物ですね……」と。

 アレックスさんは【幻夢の腕輪】を私が所持している事を知っていた、お父様に聞いたらしい。


 そして地下に戻り、ミオと合流……しかし、ミオの空気が……怖かった。

 アレックスさんもいたし、何も言えなかった。

 言ってはいけないんだとも感じて、言葉がなかなか出なかった。


 そして私は、咄嗟とっさに言ってしまった、「怖い」と。

 今までで一度も見たことのない、ミオの空気。


 その瞬間のミオから出たオーラ……身震いするほどの寒気を感じて、涙を流しそうになった。

 でも……これは嫉妬しっとだと、同時に感じた。

 私を思って、そこまで感情を隠そうとする……してくれる。

 そう思ってしまって、本当に何も言えなくなった。


「――あ。そうか……!」


 その言葉に、私とミオはピクリと反応する。

 言葉をはっしたのは、アレックスさん……それも、ミオを見て。


 なにを言うつもりですか……アレックスさん。

 まさか、変な事言いませんよね?


「君が、亜獣を倒したとか言う……ミオくんなんだね」


 パチン――と指を鳴らし、値踏みするような目線でミオを見る。

 一瞬だけ私を見て、「大丈夫だよ」と視線を送って来た……多分。

 この人は、私がミオに好意を抱いている事を知っているから……それに、亜獣の事は既に【ステラダ】中で話題になっていた。


 そんなアレックスさんの言葉に、ミオは。


「……俺じゃないです。倒したのは俺たちの同期の女の子ですよ……俺は、アシストをしたに過ぎません」


 目を細めて、そう言うミオ。

 確かにトドメを刺したのはイリア……キルネイリア・ヴィタールと言う女の子だけれど。

 事実上、亜獣【アルキレシィ】を倒したのは……ミオとクラウの姉弟だ。


「それがなんですか?」


「いや、王都でも話題でね……持ちきりだよ、実力のある冒険者たちですら手を出さない亜獣を、学生が討伐した。それも小数人で……だからね、興味があったんだ……まぁ、それだけ・・・・じゃないけど」


 馬車の窓から入って来る風に金髪をあおられながら、アレックスさんは言う。


「だけじゃない……?じゃあ、それ以外の理由は何だって言うんですか?」


 アレックスさんと対面の形で逆風を浴びるミオの金髪は、逆立っているようにも見えて……


「さぁ……なにかな?少なくとも、君には関係ないかもね?」


 そう言って私を見るアレックスさん。

 含み笑うその思惑おもわくは……実にいやらしいものだと思った。


「――どういう事っすか?」


「……ア、アレックスさん……――!」


 隣に座るミオの視線が、私をとらえた。

 黙っていろと言われたようで……身をすくませる。


 どうしてこうなってしまったのか……たった一つの選択で、こんなにも苦しい思いをするのだと言う事を、私は知った。

 言えばよかった、言えればよかった。

 そんな後悔も、この空気の前ではかすんでしまうほどに……ミオとアレックスさんの交わす視線は……自分の問題だと言うのに、割って入る事が出来ないのだと、深く思うのだった。

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