サイドストーリー5-8【アイシア奮闘中2】



◇アイシア奮闘中2◇


 アイシアはレインとアドルの二人と別れ、再び軽馬車で宿に向かう。

 今度はキチンと、御車席に座って。


「あれ……アイズさん??」


 道中、何とも珍しい人を見かけた。

 出来れば見かけたくなかったその女性……アイズ。


 アイズの家は旧スクルーズ家だ。

 道の途中にはなるが、農園へのコースではある……見かけるのもある事なのだとは思うが。


「ん……?ああ、アイシアじゃん」


 この暑さなのに一切の汗も搔かず、涼しそうにアイシアを見る。

 アイズが何をしていたのかが気がかりになったアイシアは馬車を止めて。


「何をしてるんですか?こんな道端で……何も持たずに」


「あ~、ちょっとお話かなぁ~」


 誰とだと言うのか。

 アイシアはキョロキョロと周囲を見るが、特に誰もいない……当然だ。


「へ、へぇ……」


 本当に不思議へん女性ひとだ……と心の中で思いながらも、アイシアはアイズに言う。


「これから帰られるんですか?……それとも、これからどこかへ?」


「まっさか~、どこに行くってのよ、このあたしがっ」


 どのあたしなのだろうと思いつつも、アイシアは愛想笑あいそわらいをして。


「で、ですよねぇ……それじゃあ、わたしはこれで」


「はいは~い」


「……え、ええ……アイズさん?」


「何かな?」


「いえ……あの……何を?」


 軽馬車を走らせようとしたアイシアだったが、アイズの行動に戸惑う。

 この女性、何をするのかと思えば……アイシアの隣に座り始めたのだ。

 だから「何を?」と聞いたのだが、一切気にする素振りも無く。


「お気になさらず~」


 軽馬車の荷台……野菜が積んである中へと入って行き、自然と座り込んだ。


(え、ええぇ……もしかして、このまま一緒に行くつもりなのかなぁ)


 内心は、とても嫌である。

 しかし、別段悪い人ではないと言う認識もある……ただズボラで、物凄く家が汚いと言うだけだ。

 それでも、どこか心の内を見透かしていそうなその感覚が、アイシアにはあった。


「じゃ、じゃあ……出発しま~す」


「あ~い。よろよろっ」


 野菜と一緒に寝転がり、手を振って返事をするアイズ。

 アイシアはそのまま仕方なく馬車を走らせる。

 カラカラと車輪を鳴らして走り出すと……荷台からは直ぐに。


「くぅ~……かぁ~……」


「――え」


 振り向くことなく、その寝息を耳に入れ。

 顔だけドン引きさせて、アイシアは。


(もう寝た!?……な、何なのよぉ~。うぅ、泣きたい)


 特に害がある訳でもなく、迷惑を掛けられた訳でもない。

 それなのに何故か……アイシアの中でドンドン、アイズへの心象イメージが悪くなっていく。

 どうすればこの様な事になるのか……アイシアには分からなかった。





 この子……本当に頑張るわよねぇ。

 好意をいだく人間がそばにいなくても、自分磨きに努める。

 村の人の為、家族の為、来村者の為……忙しくしているのは見てきた。

 まぁ実際、綺麗にはなってきていると思うわよ?

 そりゃあそうでしょ、あたしの村で生まれたのよ?


 その時点で、美人は確定なのよ。

 は?当然でしょ、女神あたしの村よ?

 自意識過剰?……はぁ?いいでしょ別に。


 事実……【豊穣ほうじょう】と【美貌びぼう】の影響下はデカいと思うわよ。


 【豊穣ほうじょう】は作物に関連する能力であり、【美貌びぼう】はそのまま……美しさに関する能力よ。

 転生者、ミオの能力ね……そもそも、ミオがあたしに関わる能力を持っていることが出来過ぎで、仕組まれたのかと思われるレベルだわ。

 あたしじゃないわよ……あたしがミスってそうなった事は事実だけれど、始めは本当に【無限むげん】だけを転生特典ギフトにしたんだから。

 した……つもりだったが正しいけれど。


 あたしが転生を担当した時点で、豊穣神あたしに関わる能力が大量に残っていた事は知っていた……【豊穣ほうじょう】と【美貌びぼう】がそれを現す代表的な能力であり、後は……【叡智えいち】。

 さっきあたしがアイシアに言った、「お話をしてる」って言ったのはそういう事。

 先程まで、【叡智えいち】……ウィズダムと話をしていたのよね。


 あたしはちらりと目線を送る。

 アイシアは哀愁あいしゅうを漂わせるような背中で、馬車を走らせている。

 あたしも、変なムーブをしたのは自覚があるわ。

 でもね……ウィズダムを抑え込むので、魔力がからなのよね。


 向かう先は家じゃないけれど……まぁいいでしょ。

 たまには村の中を見るのもいいってね。あたしの村なんだし。

 とか言いつつ……眠くなって来たわね。

 魔力の使い過ぎ……あの能力、創造主であるあたしに歯向かおうとするなんて……そこまでミオが気に入ったって?

 【叡智えいち】はあたしを基に作った能力よ……作られた能力の中では比較的に新しい部類の能力で、最新型と言えば分かりやすいかもね。

 転生者に与えられる能力は、基本的に“神の力”の劣化版……一柱につき数個の能力が引き出され、転生者に分け与えられていると言う訳ね。

 ま、レベルは最低限だけど……一部(ミオ)を除いて。


 あとは武器……伝説になるような剣や槍なんかは、ミオやクラウの転生前……地球の伝承などからベースに作られてるわね。まったくの一緒ではないわ。


「アイズさん……着きましたけど」


 え……もう?


「速くない?」


「そんなことないですよ、アイズさんが寝ていたからです……ほら、降りてください。荷を下ろすのでっ」


 アイシアはあたしの腕を引っ張ろうと……手を伸ばす。

 そして……触れる瞬間。


 バチィッッ――!!


「――いたっ!!」

「……なっ!?」


 弾かれた……!?


 静電気でも起こしたかのような、そんな音を鳴らして……アイシアとあたしが触れる瞬間、それが起きた。


「いたたぁ……ビ、ビリって来た。大丈夫ですか、アイズさん?」


「え……ええ……平気よ。悪かったわね……今降りるから」


「え……あ、はい……」


 突然雰囲気ふんいきを変えたあたしの態度に、アイシアは戸惑っている。

 あたしだって、おとぼけをかませるものならしたいわよ……でも、そうもいかない。


 このバチッ――とする反応には……覚えがある。


 馬車の荷台から降り、あたしはアイシアに気取られないように建物内……宿の中に入る。

 指がしびれてる……この感覚。

 震えそうになる手に力を入れて、あたしは椅子に座る……勝手に。

 早速作業に入っているアイシアを見ながら……思う。


(……EYE’Sアイズ……か)


 あたしが見つめる少女の眼は赤く……この村の人間なら誰でもそう見える事だろう。

 しかし……魔力を色濃く通せば。

 アイシアの瞳は紫へと変色して……その特異がよく分かる。


(クソったれな主神の……哀れな玩具おもちゃアイを持つ者……か)


 あたしは自分の瞳を、魔力を結晶化してそれに映す。

 紫色の瞳には、憎々しい醜悪しゅうあくなほどの思惑と……行き場のないいきどおりと悲しみが混濁こんだくし。

 ウィズダムに語ったあの言葉が、自分の本心なのだと……自覚する。


 それは、ミオが知らない真実。

 それは、神が隠す物語。

 それは……破滅への序曲。


 この事をミオに気付かせたくはない。

 まだまだ成長途上のあの子には……本気で強くなってもらうわ。

 神を殺す為……全ての神を、この世界から排するために。


 その為には……


 あたしが見つめるオレンジ色の髪の少女。

 EYEアイを持つ者……アイシア。

 あたしと同じ眼を持つ、この少女に掛かっている。


 それは進展への鍵か……それとも未来への供物か。

 それをミオが知る時は……まだ遥か先の事だ。




~ 第5章サイドストーリー【それぞれの場所で、それぞれの考えで】エピソードEND~

―――――――――――――――――――――――――――――――

次話からは6章【冒険者学生の俺。十五歳】後編を開始いたします。

一年生、秋・冬のお話になります。因みに今回のサイドストーリー【アイシア奮闘中】でのお話は、ミオは一切知らない事なので、本編でやらなかったのですが。

何気に重要な事を言っていますよね。ポンコツ女神、本編でやれ……

それでは、第6章で。どうぞよろしくお願い致します!

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