サイドストーリー5-6【水着と少女と親交と2】



◇水着と少女と親交と2◇


 私の幼児体型は、いったい誰に似たのか……ママのレギン・スクルーズは、驚くほどの美貌びぼうを持つ美魔女だ。

 今年で四十になるそのナイスボディは、村一番の美しさだと言われていた。娘と並んでも、姉妹で通ると言われている。

 その娘……姉、長女のレイン・スクルーズも、スタイル抜群で美しい……ママに引けを取らない爆乳ものをお持ちだ。


 そして私……次女のクラウ・スクルーズは……どうしてこうなった。

 自分でもそう言えてしまうほどのちんちくりん、身長は146cmセンチ

 まさかの、去年と変わらず……十七にもなって子供に間違えらえる始末。

 このままでは前世の身長を超えられずに、年齢を重ねてしまいそうだ。


 そしてもう一人、末っ子コハク……まさかの、もう少しで身長越される問題。

 考え方とかは私に似ているくせに、驚きの成長率を見せる可愛い妹。

 胸は決して見ない……見たら私は後悔してしまうわっ!


 そんな私の腹の内はともかく……着替えが終わった。


「……ピッタリなのが余計に腹立たしいっ……!!」


 私は、商店で購入した水着――旧スクール水着を着用した。

 何十年振りになるのだろう……考えたくもないけれど、懐かしい感覚もある。

 私の時は、既に旧ではなくて短パンタイプのものだったから……非常に新鮮な気分でもあるわね、悔しいけど。


「で、でも……似合ってるよ?」


「――あ?」


「ひっ……ごめんなさい!」


 私のにらみに、ミーティアが身を抱えながらすくみ上る。

 また揉みしだかれたいのかしらねぇ……


 私は指をワキワキさせて、光のない目でミーティアを見る。


「だ、だからごめんってばぁ!」


 ミーティアも着替え終わっていて、水色のビキニがまぶしい。

 お尻の食い込みを直す仕草しぐさも可愛らしく、ビキニは青い髪とよく映える。

 髪をまとめるリボンは……確かミオからのプレゼントだったかしら。

 ミオに見せられないのが残念、とか思ってそうで、少しムカつくわね。


「いいわよね、大きなものをお持ちの方はっ!」


「ひゃっ――ク、クラウっ!」


 ビキニからはみ出る尻肉をペチン――と叩いて、私は川に入って行く。


「……キルネイリアは?」


 膝まで浸かり、私はミーティアに。

 ミーティアはお尻をさすりながら言う。


「もうすぐ来るんじゃないかしら……フフっ」


 ミーティアの位置からは見えているのか、クスリと笑って言う。

 そして直ぐキルネイリアがコソコソと現れる。

 セパレートタイプのスカートと、上は少し面積の少ないビキニ。

 髪をアップにして、私とおそろいのポニーテールだ。


「あ、あの~……これ、いいんでしょうか……?」


 そろ~っと、覗き込むように言う。

 なに恥ずかしがっているのよ、そんなにこれ見よがしに胸を強調して!


「キルネイリアっ!さっさとこっちに来なさいっ……ほら!」


「え、ええ!?ミーティア、どうしてクラウは怒っているのですかぁ!」


 私の圧に、キルネイリアは急いで木の裏から出て来る。

 それに合わせて、キルネイリアの背を押すように……レイナ先輩も。


「あっははは~。クラウちゃん、八つ当たりは良くないよ~」


 急な同行になったレイナ先輩には水着がない。

 普段着を脱いだだけの、下着姿だ。


 それでも……身長に似合わない胸。

 大人っぽい下着、確か十八才だったはず……ここまで差が出るもの?

 ねぇ、おかしくない??おかしくない!?


「レイナ先輩は大きいからぁ!」


「ク、クラウ……」


 泣きそうな私の悲観に、ミーティアは困惑しながら苦笑いだ。

 そうでしょうね!持つ者は分からないのよ!!


「――よぉ~し!そりゃあぁぁぁ~!」


「え」


 レイナ先輩は助走をつけて、川にダイブ。

 いきおい良く飛び込んで、荒波を立てた。


「――わぶっ」


 膝丈までしか浸かっていなかった位置の私だが、その波が直撃した。

 ねぇ……不条理。


「うっひゃぁ~!冷たいねぇ~!!それ、それ!」


「わっ、レイナ先輩っ!?」


 レイナ先輩はミーティアとキルネイリアにも水をかける。

 バシャバシャと、海にいるようなカップルのように……笑顔で。


「つめたっ!」


「ぷはっ!……レイナ先輩、覚悟はいいですねっ!」


 私は水を手で払い、反撃する。

 ザバーッ――!!と波を立てるように、思い切り。


「おっと~!ぶっふ……!ふっふっふっ……やるじゃやないか、クラウちゃん」


 仁王立ちで水を食らうレイナ先輩。

 いやいや……その下着、透けてますけど!

 大事な部分が見えてますけど!?


「レ、レイナ先輩!前、前……見えてます!」


 ミーティアが駆け寄って、自分の身体でレイナ先輩を隠す。

 キョロキョロと周りを確認し、誰かが居ないかと注意するミーティア。


「あっはっはっは!大丈夫だよミーティアちゃん、誰もいないって……私たちだけだから、むしろ全裸でもいいかもねぇ~!」


「だ、駄目だめですよ!」


「流石にそれは……大衆浴場じゃないんですから……」


 ミーティアとキルネイリアが言う。

 確かに、流石にこの場で全裸はマズい……と言うか、各方面から怒られそうね。


「まぁでも……人が居ないのは分かってるし、折角の水浴び……楽しみましょうっ!皆っ!」


 私は魔力を籠めて、水面を叩いた。

 その威力は、通常の数倍……何かが叩きつけられて落下したかのような飛沫しぶきをあげて、三人に襲い掛かった。


「わっ、クラウちゃ――っ!」

「きゃっ……んぶっ」

「え、えぇ!?」


 おどろく三人と、楽しくてしょうがない私。

 そう言えば、友達と海水浴(海ではない)とか……前世でも行ったこと無かった。

 こんな気持ちなのね……青春って。





 疲れた……久しぶりに、戦い以外でこんなに身体を動かしたわね。

 村でいれば畑仕事で年中無休で動くけど、友人と疲れるまで遊ぶだなんて……さっきも言ったけど前世でもない。


「……どうぞ、クラウ」


「ん……ありがと、キルネイリア」


 キルネイリアが水筒から冷たい飲み物を入れてくれた。

 さわやかなミント系の……なにこれ?


「……ふふっ、凄い顔してますね」


「まぁね、初めて飲んだわ」


 眉根を寄せて、その飲み物を凝視ぎょうししていたからか、キルネイリアが笑いながら言う。


「これ、炭酸ソーダ?」


 この清涼感は、多分ミントね。

 シュワシュワ感は勿論もちろん炭酸だろうけど……この世界でどうやって保つのか。

 魔法の道具と言われればそれまでだけれど、不思議なものが多いわよね。


「はい、グリーンソーダと言われる甘い樹液を溶かしたものですね」


「――じゅ」


 樹液!?ミントじゃないの!?

 なにこれ、虫の気分だわ!


「でも、美味しいですよね?」


「……ま、まぁね……味はね、味は……情報は聞きたくなかったかしら」


 入れられたグリーンソーダをタプタプと揺らしながら言う。


 私が見る景色では、ミーティアとレイナ先輩が遊んでいる。

 ミーティアが魔法で水の球体を作って、それをボールのようにしていた。

 普通に凄いわね……でも、攻撃には使えないかしら……威力が低すぎて。


「――クラウは、いいのですか?」


「え?」


 なにが?遊ばなくてって事?


「……楽しいですよね、こういうのって。私は友人がいないので……新鮮です」


「――あら、私たちは友人じゃないの……?」


 その言葉は前世の私に刺さる。

 でも、今は違うと思えるわ。


「え……あ。い、いいのですか??」


 本気で困惑してるわね……この子。

 ハーフエルフとして産まれて、友達なんて今までいない……そんな経歴を持つ人間は沢山いるでしょう。

 それでも、この子は明るい……親を殺され、孤独に過ごす数年の中でも、活路を探して前を向いていた。

 凄い精神力よね……


「当然でしょ、イリア・・・……」


 私は立ち上がる。


「え……?」


 ゆっくりと歩き、水辺へ。

 背を向けながら……私が友と認める少女へ。


「私も、友達なんていなかったし……要らないとさえ思っていたわ」


「そう、なんですか?」


 そう……この世界に転生して、目的は同じく転生した同級生を探す事。

 でも、自分の楽しみくらい……少しくらい持っていてもいいのかも。

 そう思えるくらいには、私にも余裕が出来たのかしらね……


「そうね。でも……今は違う。ミーティアもそうだし、相棒のラクサーヌだってそう。それに……あんたもね、イリア」


「……」


 キルネイリア……イリアがどう思おうと、私には関係無い。

 でも、私は少なくとも友人だと思っている。思えている。


「別に、嫌ならいいのよ?」


 イリアに振り向き、歯を見せてニカッと笑う。

 そんな私の表情に、イリアは。


「――い、いえ……!私も、私もです!クラウの事も、ミーティアの事も……大事な友人です!」


 恥ずかしそうにしながらも、イリアは立ち上がって……胸に手を当ててギュッと拳をにぎる。

 友達を作る一歩を踏み出すのは、とても勇気がいる事だ……一筋縄ではいかない時もある。

 でも、私の想いは届いた……きっと、ミーティアだって同じだわ。


「そ。なら……ほら、もう少し遊びましょう」


 イリアに手を差し出し、再度笑う。

 嬉しいのか恥ずかしいのか、涙目のイリアに。


「は、はいっ!」


 私の手を取り、笑顔を見せるイリア。

 こうして……私には新たな友人が出来た。


 未来でどうなるかなんて分からないけれど、それでも今は……楽しみましょう。

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