サイドストーリー5-5【水着と少女と親交と1】



◇水着と少女と親交と1◇


 その日……一人で留守番をするミオの所に、グレン・バルファートさんが訪れ。

 寮で【アルキレシィ】関連の話が進展している事を知らない私たち、ミーティアとクラウ、そしてイリアの三人は……【ステラダ】の街の直ぐ外にある小川に来ていた。

 魔物が現れる可能性もあったけれど、クラウの「倒せばいいし」の一言で解決。

 【ステラマーケット】で水着を買い……三人で向かっていると。


「あれ~……?君たちは、一年の~」


 赤毛の小柄な少女が、私たちに声を掛けてきた。

 その少女、クラウよりは大きいけれど……その身長差は十cmセンチほど。

 クラウが年齢の割に小さいのだと、納得できる。


「あ、レイナ先輩」


「え?」


「へ?」


 声を掛けたのは私だ……あっ!そ……そう言えば、レイナ先輩とはトレイダの姿でしか会っていなかった!

 そのキョトンとした顔に、私はあせってしまい。


「あ、え……えっと」


 と、しどろもどろになってしまう。

 しかし、隣にいたクラウが。


「レイナ先輩、お久しぶりです……以前のサポートではありがとうございました。この子は、ミーティア・クロスヴァーデン……友人です」


「――おぉ~!クラウちゃんのお友達かぁ~」


 クラウがフォローをしてくれた。

 一年首席のクラウは、やはりレイナ先輩の依頼サポートもしていたようで。


「いや~クラウちゃん、この前は助かったよ~」


「いえ、当然ですから……先輩も、無事に試験のポイントを獲得できたようで何よりです」


 きっと結構な難易度だったのだろう。

 二年生は三年生に評価される……進級する度にその数を減らす冒険者学生で、残っているのは皆、実力者だ。


「あはは~、ホントに助かったよ~……よく考えたら、ミオくんのお姉さんなんだもんねぇ、強い訳だ~」


「いえ、恐縮です……」


 悪い気がしていなさそうなクラウ。

 すると……私の隣のイリアを見て、レイナ先輩が。


「――あれ、君は確か……ロッド・クレザースの従者じゃなかった?」


「あ……はい、キルネイリア・ヴィタールと申します。ロッド坊ちゃんがお世話になりまして」


 深々と頭を下げるイリアのその態度は、どう見てもメイドさんモードだった。


「そっかぁ……学生でもあったんだね~、よく・・頑張るよ……」


 その言葉の意味はおそらく……ハーフなのに、という意味だろう。

 ハーフの道のりが大変だという事は、当然レイナ先輩だって知っている。

 それでも、けなさないだけ……良心的だ。


「はい……つとめます」


「うんうん、頑張る事は良い事だよぉ~……所で、三人は何をしているのかなぁ~?」


 元気にうなずき、レイナ先輩はひょこッと身体をかしげて私たちの荷物を見る。


「あ……これから、ちょっと近くの川に行くんです」


「今日も暑いですし……水遊びを」


 私とクラウの言葉に、レイナ先輩は。


「――え!いいなぁ~……私はこれから帰るんだけど……ちらっ」


 あ~、そういう事ですか……


「……。……一緒に、行きます?」


 少しの間の後、クラウはレイナ先輩をお誘いした。

 その一瞬の間で、クラウは私とイリアに確認の視線を送っていた……私もイリアも別に反対はない。


「――ええ!!いいのぉ~!?」


 目をかがやかせて、レイナ先輩は喜ぶ。

 ぴょんぴょん跳ねて、どうやら本気で行きたかったようだ。


勿論もちろんです……ね?」


「はい、一緒に行きましょうっ」


「そうですね。あ、でも……レイナ先輩、水着は」


 三人の言葉、そして最後の言葉は私のものだ。

 その言葉に、レイナ先輩は一瞬で動きを止めて……暗い空気をかもし出した。しかし……切り替えが早いのか。


「……下着でいいや~。女の子しかいないし、別にいいでしょ」


 なんて楽天的な考えを……いいのかしら、帰りの着替えとか。

 そんな事を考えつつも、私たち三人とレイナ先輩は……水辺へ向かう。

 この後は、【ステラマーケット】で買った……水着にお着替えね。





 【ステラダ】の周辺は、全てが安全という訳ではない……それこそイリアのご両親が被害にあったように、魔物が道を闊歩かっぽし、戦闘になるようなことも度々起こっている。

 冒険者学生は自分の身は自分で、一般人は警備隊や傭兵……貴族は騎士団など、各々の防衛方法で町を行き来する。


 私たちが来た場所は護衛を付ける程の距離ではない為、比較的簡単に来る事が出来る場所だ……それでも、子供などが気軽に来れはしないのが、かわいそうな所だが。


「綺麗ですね……」


 イリアが言う。

 サラサラと流れる小川は、にごりのない緩やかな流れで……透き通る水面みなもからは優雅に泳ぐ魚が見える。

 水底は大き目の石が並べられており、煉瓦れんがとまでは言わないが整えられていた。


「そうね、大きな木もあって……涼めるし、空気も美味しく感じるわ」


 私はイリアに同意する。

 すぅーっと息を吸って、森林浴でもしているかのような気分になる。


「……――ほらっ!!早く着替えるわよっ!」


「……」


 台無しだよ……クラウ。

 急かすように私とイリアの背を押して、木陰に向かう。

 先ほど言った大きな木の影に移動し……【ステラマーケット】で購入した水着を出すと。


「……面積、少なくない……?クラウ」


 実は、三人の水着は全てクラウが選んでくれたものだったのだけれど。

 着るまで内緒と言われ、内心そわそわしていたのだが……ふたを開けたら、なんとも面積の少ない水着が出て来て、私は非常に戸惑っていた。


 水色の、上下別の水着……内陸である【リードンセルク王国】には、海は勿論こう言った水遊びが出来る場所は少ない。

 貴族のご婦人方が広い庭に水辺を作るくらいしか、水系統の娯楽がないからね。


「え、いいでしょ……二人はスタイル良いんだから」


 本気で困惑した顔で、クラウは服を脱ぎ始めている。

 二人……という事は、イリアのも。


「うぅ……流石さすがに恥ずかしいのですが……本当に、着るのですか?」


 緑色の水着を持って、イリアは顔を赤くしていた。

 私のと似たタイプの、上下別の水着だ。


「わがままボディの二人には、ビキニが一番でしょ……その方が需要ニーズもあるし」


 ニ、ニーズ?

 よく分からないけど、似合うから黙って着ろという事なのかしら?


「――それにしてもあの店主……私を子供あつかいしたわね、許すまじ」


 そう言うクラウが取り出した水着は、なんだか私たちとは違い、上下一対の青黒いものだった。


「――スクミズじゃない……しかも旧タイプ。ふざけてくれるっ」


 お、怒ってる……確かお店で「お嬢さんに合うサイズはこれしかなくて」……と言われてたはずだけど……ソレ?

 全裸でそのすくみず?を見つめるクラウの恨めしい顔は、本気でお店に乗り込んでしまいそうで恐ろしかった。だから私は。


「に、似合うと思うわよ……?」


 と、フォローをしたつもりだったのだけれど。


「――ええ、そりゃあそうでしょうね……どうせ子供体型ですよっ、幼児体型ですよっ!貧乳ですよっ!!悪かったわね、このおっぱいが!!」


 ぺちーん――!!と、クラウは私の胸を叩いた。


「い、痛ーいっ……そ、そこまでは言ってないよっ……なんでそこまで怒るのよっ!」


「うるさいっ!黙れっ、揺らすな!それ寄こしなさいよっっ!」


「――え、きゃっ」


 涙目で私に飛びかかり、背におぶさって胸を鷲掴わしづかむ。

 な、なんでそうなるのっ!


「ちょ、クラウ……やめ、触らない……あ、ん……もうっ!やめてってばぁぁぁっ!!」


 もみくちゃにされる私を、イリアは顔面蒼白で見ていた。

 助けてくれてもいいのに……薄情者はくじょうものぉぉぉ!!


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