サイドストーリー5-3【オッサンと半端な子1】



◇オッサンと半端な子イリア1◇


 オレの名前はグレン・バルファート。

 A級冒険者にして、この街……【ステラダ】にある魔物図書の経営者だ。

 オレは今、猛烈もうれつ悪寒おかんさらされている。


 外から聞こえてくる小さな話し声……十中八九、ミオガキだろう。

 もう一人は……この少ない魔力、まさか。


「……う~っす、オッサン」


「――!」


 図書内に図々しくも入って来る金髪の少年、そして黄緑色の髪をなびかせた……半端な子ハーフエルフ


「おいおい……」


 予定にないだろうがっ!ミオガキ!!

 まさか、ヴィタールの娘を連れて来るか!?


「ほら、イリア」


「――は、はいっ」


 ミオガキにうながされるように、キルネイリア・ヴィタールが一歩前に出る。


 くっそ……やっぱり、似てやがる。

 キリィ・レイズ・ヴィタールに。


「あの……グレンさん、この度は様々なご配慮をしていただき……誠に――」


「ま、待て待て!ちょっと待てミオガキ……こりゃあいったいなんだ!?」


「――はい?」


 ミオガキはキョトンと首をかしげて俺を見る。

 まるで「どうした?文句でもあんの?」とでも言いたそうに。

 その通りだよ、ありまくりだっつうの!!


「おらっ!ちょっと来い!――なぜヴィタールの娘を連れて来た……?」


 オレはミオガキの首根っこを掴んで、キルネイリアに聞こえない様に離れて詰める。


「……なぜってなぁ……そうした方がいいと思ったからじゃん?」


「なぁんで疑問形なんだよっ!!」


 悪びれずに、ミオガキは笑顔を見せる。

 このガキ、マジで顔がいいな。ムカつくほどにっ!


「おい、オレはなぁ……」


「――分かってるよオッサン、イリアの事を知ってるんだろ?初めてここに来た時も、会おうとはしてなかったし……まぁあの時は、イリアは男に変身してたけどさ」


 その時の方がまだ会えるっつの!


「そりゃあそうだが……その、心の準備がだなぁ」


「なにガキみたいなこと言ってんだよ、オッサン大人なんだから……心構えくらいしておけよ……」


 うるせ!!大人には大人の事情があんだよ!

 それに……あの子はなぁ……本当に、キリィに似てるんだ。

 オレの、仲間だった女性に。


「……うっせ」


 ミオガキを離して、少し乱暴に頭をわしゃわしゃする。


「いてぇって……オッサン、八つ当たりしねぇで現実受け入れろ!」


 くぅぅぅぅぅ!このガキ、分かったこと言いやがって!

 そうもいかねえのが大人なんだよ!


「――あ、あのぉ~……お二人とも、よろしいですか?」


「「あ」」


 仕方ねぇ……オレも受け入れる時が来たんだ。

 かつての仲間との約束を、果たすために。





 オレは、ミオガキとキルネイリアに果実のジュースをくれてやる。


「おら、飲め……ミオガキは金とるからなっ」


「――なんでだよっ!」


 と言いつつ飲むミオガキ。

 キルネイリアは笑みを浮かべながら……くそ、似てる。

 横顔とかが特に……似てんだよなぁ。


 その女性は……二十年も前に結婚した。

 冒険者仲間で、風の魔法を使いこなす魔法使いだった……ある日、オレを含む数人で、貴族……クレザース家の人間から依頼を受けた。

 当時のオレは二十三歳……冒険者学生で、三年生だった。

 キルネイリアの母、キリィは二十二歳……当時は二年だったな。


 まだ冒険者学校もルールが決まってなくて、各々おのおので冒険するメンバーを決める事が出来ていた。

 エルフということもあって、キリィは滅茶苦茶美人だった……そりゃあもうモテてたさ……かくいうオレも、そういう事だ。


 その依頼は簡単な物で、クレザース家の坊ちゃんを護衛して……隣町に送り届けると言うものだった。

 今の学校じゃ、中々ない依頼だな。


 その依頼の中で、キリィは依頼者……レダナ・クレザースと馬が合った。

 話は合うし趣味も合う、思考も似ていて……お似合いの二人だと思ったよ。

 その日の依頼は簡単に終えて、数日後……【ステラダ】の街で見掛けた、二人がデートをしていたのを。


 その時は笑って誤魔化ごまかしていたよ。

 「お礼をされていただけです……」ってさ……笑顔で、赤い顔でな。

 その時点で、恋をしていたんだと……理解した。


 それから二年……彼女はレダナ・クレザースと結婚した。

 冒険者学校卒業を捨ててまで一年間付き合い、そして貴族の嫁に……でも、クレザース家は受け入れなかった。

 当然だ……り固まった貴族一家、しかも長男が連れて来た嫁はエルフ。

 受け入れない理由は簡単……産まれてくる子供が、半端者になるからだ。


 それでも、キリィは言った……「私は、幸せです」と。

 冒険者仲間は誰も反対しなかった。その笑顔を見せられては、オレもな。

 貴族一家に受け入れられなくても、その幸せは本物だった……


 ――だったんだ。


 彼女が子を産み、十年……受け入れられないまま、彼女はクレザース家のメイドとして働いていた。

 嫡男ちゃくなんレダナ・クレザースの妻でありながら、クレザースの姓を名乗れず、不遇にあつかわれながらも……愛する旦那と娘とで、幸せな日々を過ごしていたんだ。

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