サイドストーリー5-2【クラウとイリアのお買い物】



◇クラウとイリアのお買い物◇


 ミーティアと訓練をしているミオの代わりに、キルネイリア・ヴィタールとの買い物に行くことになった私……クラウ・スクルーズ。

 訓練中に見せたミオの新しい力……その事を考えていると、いつの間にか待ち合わせ場所に到着していた。


「……お待たせ、本日の代行……クラウです」


 私は、不審に見てくるキルネイリア・ヴィタールにわざとらしく敬語を使って頭を下げる。


「い、いえ……存じていますが」


「あらそう、知ってたのね」


 頭をあげて、キルネイリアの言葉に納得する。

 どうやら今日の事を、自分だけが知らされていなかったようだ。


「……」


 それにしても。


「な、なんですか……?クラウ」


「いえ……」


 私はジロジロと、キルネイリアの身姿を観察する。

 私服だ……この娘、まるでデートかのようにオシャレに着込んでいる。


「――浮かれてんの?」


「ち、違いますっ!クラウと出掛ける事を知っているのに、わざわざめかしたりしませんよっ」


 赤面して、キルネイリアは首を振る。

 メイド服姿と冒険者の姿は見たことがあるけれど……へぇ、こんな服着るんだ。

 プリーツスカートにジャケット、まるで地球の若者でも着ていそうな服装だ。

 あぁ……大学の時にこういう格好したなぁ


「そう?ミオが来ると思ってたのかなって」


「違います。事前にクラウに頼んだって言っていましたし」


 へぇ……私はさっき聞いたんだけど。

 ミオの奴、私が頼みを聞くって決めつけてたわね……受けたけど。


「まぁいいけど……【たかの眼】でアクセを受け取るんだって?」


「――はいっ!ミオが頼んでくれていたものらしいですっ……出来上がったから取りに来てくれって、店主から手紙が届いたそうで!」


「熊さん……」


 ボソッと、私は思い出す。

 この店の店主、ガドランダ・モルドインは、熊の獣人だ。

 控えめに言っても怖い存在に感じるが……私は違う。

 熊が好きなのだ。前世では、黄色い熊さんを沢山集めていたのだから。


「じゃあ行きましょうクラウ!」


「ええ……そうね!」


 カランカラーン!と、鈴を鳴らす。

 いきおい良く嬉々ききとして、私とキルネイリアは店内に入る。

 多分、意味合いは大きく違う気がするけど。


「――お?おお……嬢ちゃんたちは」


 熊さん!


「どうも……ミオ・スクルーズの代理で来ました。姉のクラウです」


「こんにちは、あの……ミオが頼んでいたと言うのは?」


 私は挨拶を、キルネイリアは要件を。


「ああ、ちょっと待ってな……よっこらせっ……と」


 カウンター席から立ち上がって奥へ行くガドランダさん。

 あっ!!し、尻尾!!尻尾があるわっ!

 丸っこい尻尾が、チョコンとお尻に乗っている!!

 あ~知りたい、どうやってパンツやズボンから出てるの?

 あ~触りたい、耳元尻尾も、モフモフしたい!!

 あ~嗅ぎたい、毛皮に顔を埋めて、クンカクンカしたい!!


「ク、クラウ……凄い顔ですが」


「――はっ」


 しまった……つい、動物大好き症候群が出てしまったわ。

 どんな顔をしていたか、想像できてしまうくらいには、自覚がある。


「気にしないで。病気だから」


「は、はい??」


 分からない人は分からない、そう言うものよ。


「――お待たせしたね、これが注文の品……【緑風の腕輪】だっ。自信作だぞぉ」


 獰猛どうもうな牙を見せながら笑うガドランダさん……可愛いんだけど!!


「りょ、【緑風の腕輪】……ですか」


 ちょっとキルネイリア、何引いてるのよ。

 ん?ああ……顔が怖いって?まだまだね。


「おうよ!ミオのあんちゃんから譲ってもらったスケルトンの素材と、【緑風艶石りょくふうえんせき】を組み合わせた腕輪だ、サイズは大き目だから……そうだな、あのガントレットの下でも平気だろう」


 あ……ガントレット。


「あー、えっと……」


 気まずそうにするキルネイリア。

 そうなのよね……あのボロボロのガントレット、今はもう別物と言ってもいい。


「キルネイリア、見せなさい」


「――え」


 その手提げかばん、ガントレット入ってるんでしょ?

 服装に合わせたのか、キルネイリアは可愛らしいかばんを持っていたのだ。しかし……中身がガントレットだと雰囲気ふんいき台無しね。


「あの、店主……これなんですが」


 キルネイリアは私の言葉に従って、かばんからガントレットを取り出した。


「お?……!――な、なんだそれ……!」


 別物と言えるくらいには、変化しているわよね。

 色合いやアンティーク調なのは変わらないけれど……そもそもサイズが変わっているのだから。


「……あの」


「少し見せてくれっ!」


「あ、はい……」


 興奮こうふん気味のガドランダさん。

 キルネイリア、もしかして怒られると思ってない?


「平気よ。目がかがやいてる……目新しいものが見れて、新鮮なんでしょ」


「そ、そう言うものですか?」


 根っからの制作者クリエイターなんでしょ。


「そういうものよ……大丈夫、別に取って食われはしないからっ」


 ニヤついて、歯を見せて笑う。

 キルネイリアは「ひっ」としゃくり上げておどろく。

 想像したわね……食べられるの。


「こりゃあすげぇ……嬢ちゃん、これはまさか、ミオのあんちゃんが!?」


「は、はいっ!!」


 背筋を伸ばして、キルネイリアは返事をする。

 だから、怖くないってば。


「……あのガントレットの面影は残ってる、だがこいつは……もう別もんだ、性能だけなら比べらんねぇぞ……まったく、どうやったんだよ」


 ミオは、昔から変形魔法をよく使う。

 地面や草木、金属も得意ね……このガントレットも、そうやって成形したんでしょうし。

 でも、規模が異常なのよね……素材一つで、家まで建ててしまうんだから。


「嬢ちゃん、これをはめて見てくれねぇか」


「え、はぁ……」


 ガドランダさんに言われるまま、キルネイリアはガントレットを装着する。

 その服装には不釣り合い過ぎて、笑いそうになるわね。


「おお、丁度ちょうどよさそうな感じだなっ!どれどれ……」


 ガドランダさんは、キルネイリアのガントレットの上から、【緑風の腕輪】をはめ込んだ。

 ガチャリ――と、バングルのような腕輪は、おおいかぶさるようにガントレットとピッタリとはまった。


「……んっ……これ」


「魔力の流れ……?」


 腕輪がはめ込まれた瞬間、キルネイリアの魔力が上がった気がした。

 というよりも、ガントレットから流れている感じかしら……もしかしてミオの奴、ここまで計算してた?


「おお!ピッタリだな……!まるで始めから一対だったようだ!俺の腕も捨てたもんじゃないな!がっはっは!」


「あはは……」


「……」


 ガドランダさんにミオから預かった代金を支払い、私とキルネイリアは店を出て歩く。


「今日はありがとうございました、クラウ……実を言うと、本当は私一人で行く予定だったのですが……」


「……怖かったのね、熊さんが」


「うっ……」


 図星か。


「でもよかったじゃない、値段も手ごろだったし……」


「そうですね、この腕輪も……ガントレットに合わせて造られたように丁度ちょうどよくて、おどろきました!」


「そう、ね」


 まさか……そこまで計算しては無いわよね?

 キルネイリアの指先から二の腕までをがっちりとおおうガントレット……その上からはめ込まれる腕輪。

 合致したように上昇した魔力……全てが繋がるピースのように、仕組まれていたかのように。


 その答えは、ミオが得ていた能力――【叡智えいち】。

 その能力が全てを計算して、事を得ていたことを……私は数ヶ月後に知る事になる。

 まさかミオが転生者だったなんて……この時は思いもしなかったんだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る