5-116【黒き獅子と半端な子14】



◇黒き獅子と半端な子14◇


 可能な限り、最大限まで【アルキレシィ】の体力を減らす。その為には手加減も必要だ。

 もし勝利だけが目的なら、【破壊はかい】とかの能力を含む全力で戦えばすむ。

 でも俺は違う……俺は自分のために戦っているんじゃない。

 誰かの為に行動して、それが結果的に自分に返って来ているだけなんだ。


 それは今も、それ以前もそう……


 俺の行動理念は、いつも自分の為じゃない。

 幼馴染の為に盗賊と戦い(1章)、奴隷どれいにされていたミーティアとの出会い、ジルさんを痛めつけるジェイルと戦った時も(2章)、村を守るために魔物の大群と戦ったのだって(3章)……もとを正せば自分の為ではない気がする。

 ド田舎の村を出て、街に進み……冒険者学校にまで通えてさ、そこで知り合った友人は、生まれに呪われたと言っても過言ではない(4章)。

 それでも、そんな彼女は前を向いていたんだ……でもって俺は、それをアシスト出来る立場で。

 これは、俺にしか出来ない事だと思った……だからここまで来たんだ。

 それがまさか、転生者だとバレたりするところまで行くとは思わなかったけどさ。


「……ミオっ、待っ――」


 そのバレた相手、クラウ姉さんが何かを言った。

 でも、【紫電しでん】の加速は止まれないんだ……悪いね。


「……くらえっ!」


 【紫電しでん】で加速した状態で、【極光きょっこう】の光の力場を駆ける。

 右手に持った黄金の大剣【カラドボルグ】は、衝撃波を以って切り裂く魔法の剣だ。

 刀身に触れるまでも無く、その衝撃はなます切りのように斬り伏せる。

 しかし、亜獣【アルキレシィ】の皮膚は、想像以上に硬かった。


 ズムン――と、魔力ごとその皮膚に吸い込まれる大剣。


「な!マジか……」


 俺は【紫電しでん】で素早く移動し、まるで瞬間移動をしているかのような動きで【アルキレシィ】を翻弄ほんろうする。


 ちょっとクラウ姉さん、なんで突っ立ってんの!?角を狙うんだろ!?


「姉さんっ!攻撃攻撃!」


 俺は手を振ってアピールする。

 野球の三塁コーチャー張りに腕を回して、走れと急かす。


「……もう、なんなのよっ!!」


 なにがだよ!?

 クラウ姉さんは何か言いたい事があるらしいが、今だけは後にして欲しい。

 それが伝わったのか、姉さんは【天使の翼エンジェル・ウイング】を広げて飛翔……風を斬るような翼の動きで急接近し、【アルキレシィ】を一閃する。


「馬鹿ぁぁぁぁぁっ!!」


「何がっ!?」


 そんな罵倒ばとうをしながら、クラウ姉さんは【アルキレシィ】に斬りかかる。

 高速で移動する軌跡きせきはまるで光線のような残像を残して、姉さん【クラウソラス・クリスタル】が【アルキレシィ】の角に衝突した。


 ガキィィィィン――と、洞窟内に反響する金属音。

 だあああ、耳がっ!


「――硬いっ!なら、ビームでっ!!【光線剣レイブレード】」


 【クラウソラス】から放たれる光は直線状に伸び、一本の柱のように集積していく。

 【アルキレシィ】はこちらをにらみ、動物がごとく「グルルルル」とうなった。

 角からは魔力がほとばしり、電撃を発生させている。


「撃つつもりだっ、クラウ姉さん!」


「分かってる、撃たせないっ!!」


 空中から、長く伸びる光線の剣を振り下ろすクラウ姉さん。

 俺も援護として、【石の槍ストーンスピア】を数本投げた。


 そして【アルキレシィ】の角からも、まぶしい程の電流が発生し――【クラウソラス・レイブレード】と衝突した。

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