5-117【黒き獅子と半端な子15】



◇黒き獅子と半端な子15◇


 この人間たちは、いったい何をしに来たのだろうと、獣は思う。

 以前訪れた冒険者にんげんたちと違い、物凄い実力を持った二人の人間。

 格下の魔物を食し続け、魔力を貯めて数年を生きてきた自分でも思う……この人間は、自分よりも強いと。


 人間的に言えば――恐怖の感情だ。


 そんなおびえの感情を、魔物である【アルキレシィ】も持っていた。

 当然話すことは出来ないし、その感情を人間が気付く事もない。


 だから、自分の出来る力で抵抗するだけなのだ。

 死なない為に……生きる為に。


 空を舞う人間は、魔力を集めて光の柱を作った。

 あれを自分に叩きつけるつもりなのだと、【アルキレシィ】も分かっている。

 先程一撃を角に受けたが、身体の芯に響く凄いものだった。

 あの翼を持つ人間は、殺しに来ている……そう取った。

 地面にいる石を投げてくる人間とは違う、決定的な差。


 殺意。


 それが、翼を持つ人間からは感じるのだ。

 ならば、全力を以って……喰ってやろう。





「はぁぁぁぁぁ!!【光線剣レイブレード】!!」


 振り下ろされる光線の剣と同時に、【アルキレシィ】の角で帯電していた電撃が放たれた。

 まぶしすぎて目を閉じてしまいそうになるほど、その衝突は激しかった。


「す、すげぇ……これが【アルキレシィ】の魔力……エルフを喰った、魔力!」


 その力は、キルネイリア・ヴィタールの母親を喰って得た力だろう。

 魔物から亜獣へと進化を果たし、並の人間では倒せないと言われるほどの力を得たんだ。

 その存在は、この国の人間からも煙たがられる存在だろう。

 【アルキレシィ】を討伐できれば、それなりに評価も得られるはずだ。


「――このっ……なんて魔力なのよっ!本当に魔物なの!?」


「クラウ姉さんっ!」


 姉さんの魔力の方が押されてる。

 このままでは落とされる……それならっ!


「【無限むげん】――!」


 俺は【アルキレシィ】に手をかざし、その踏ん張っている足元を【無限むげん】で操作する。

 地盤を……ほんの少しだけ緩くする。

 これだけの巨体だ、自重で前のめりになるはずだ。


「グルルルっ!?」


 肘関節を曲げ、【アルキレシィ】は思った通りに前のめりだ。

 頭から突っ込んで、地面にダイブ。


「しゃっ!」


「ナイスミオ!――【クラウソラス】ぅぅぅっ!」


 その一瞬の隙で、クラウ姉さんは【アルキレシィ】に斬撃を見舞った。

 【光線剣レイブレード】は、通常【クラウソラス】と【結晶剣クリスタル】の両方の良いとこ取りらしい。

 肉体ダメージも精神ダメージも、両方を与えられるんだ。

 ただし消費が……ってことらしいけど。


 斬撃は見事に【アルキレシィ】の右角を切断し、地面に激突……物凄い土煙が舞った。


「……やったっ、そうとうなダメージだろっ!!」


「つ、疲れた……」


 着地し、クラウ姉さんは翼を羽ばたかせた。

 煙を払ってくれるんだろうな。

 でもこれで、【アルキレシィ】にも結構なダメージのはずだ。


 きっと、あの場に頭から突っ込んで……倒れているに――


「「――い、いない!!?」」


 そこに、【アルキレシィ】の姿は無かった。

 そして、後方から……悲鳴。


「――きゃあああああっ!!」


 この声……


「ミ、ミーティア!!」


 振り向くとそこには、入り口付近に現れた【アルキレシィ】が……隠れていた四人を、よだれを垂らしてにらんでいた。

 特に、その味を覚えているであろう……半端な子エルフの姿を。

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