5-115【黒き獅子と半端な子13】



◇黒き獅子と半端な子13◇


 クラウ姉さんが使った魔法の道具、確か【風送球ふうそうきゅう】。

 地球で言う扇風機みたいな役割の道具の筈が、あの巨体を浮き上がらせるほどの風を発生させるとは……【クレザースの血】、すげぇな。

 俺も、使って見るかな。


「魔力チャージはもう終わってるし、後はこれを……」


 俺がロッド先輩に持たされたその道具、名前は【吸魔綿きゅうまめん】。

 魔力を吸収し、その属性によって異なる爆発を発生させる物だ。

 言わば、フラッシュコットンボムだな。


「【紫電しでん】!」


 俺は【吸魔綿きゅうまめん】を靴底に仕込む。

 電撃の魔力を乗せて、一気に駆け出す。


「ナイスクラウ姉さん!行くぞっ……【電撃デンゲキック】!!」


「――ダッサ!!」


 マスクドライダーもビックリのスーパーキック。

 【アルキレシィ】の腹にめり込むそんな一撃を、クラウ姉さんが一言。

 ダサいとはなんだ!俺は能力で派生する現象全てにおいて名前を付けてるんだぞ!その苦労が分かるのかいって!!


「――ガルオォォォンッッ!ゲボォォォ!」


 うおっ、ゲボ吐いた!!


 俺は蹴りの後にすぐさま【紫電しでん】を発動させて、クラウ姉さんの隣に立つ。


「……吐瀉物としゃぶつが燃えてる……?」


「え?」


 おお……マジだ。

 肺と胃に、中身を燃やすような構造を持っている……つまり、【アルキレシィ】にはブレス系の攻撃もあると言う事か。


「ブレスに注意だね。影に入る行動もあるし、動きも早い……油断はしないにしても、そろそろ弱ってくれてもいいんだけどな」


「なら、このままトドメ?」


 分かってて言うんだから、このひねくれ姉め。


「何のために手加減してんだって……トドメはイリアね」


「ふふっ……分かってるわ」


 俺たち二人は手加減をしている。

 多分クラウ姉さんも同じだ。思ったより身体も動くし、魔力の温存も出来てる。

 この【アルキレシィ】……デカブツ相手でも怯えることなく、いつも以上に戦えている自覚があるんだ。


「起きるわよ……私、あの狙うけど」


「あ~……」


 始めから気にはなってた。

 電撃をバリバリと放てそうな二本の角……でも、攻撃には使って来てない。

 魔力を発生させている可能性もあるよな。

 潰す選択肢もあったけど、クラウ姉さんも考えていたのか。


「――【クラウソラス】!【結晶剣クリスタル】!!」


 光の剣が実体化する。

 なるほど、角を斬り落とすつもりか。

 クラウ姉さんも、魔力のセーブの仕方がうまくなってる……入学前に村で戦った魔物たちの時とは違う。

 俺もクラウ姉さんも、確かに成長してる……強くなっているんだ。


「【極光きょっこう】!【紫電しでん】!――【カラドボルグ】!!」


 角を落とすなら、俺も剣だ。

 空間を裂き、出現する黄金の剣を、俺は右手でつかみ……身震い。


 やっぱり、刃物が怖え。

 だけど、いつまでもそんな事ばかり言ってられない。


「俺は強くなる……刺されて死んだからって、剣が怖いなんて言ってられっか!前世での死因がなんだっ!やってやるっ!!」


「――!」

(え……?)


 俺は走る、前世でのトラウマを払拭するため、黄金の剣を手に。

 脚部に【極光きょっこう】と【紫電しでん】をかがやかせて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る