5-114【黒き獅子と半端な子12】



◇黒き獅子と半端な子12◇


 ミオガキの奴……あんな魔法まで使えたのかよ。

 少なくともあの姉弟、A級冒険者でも使えないような魔法を次々と使いやがる。

 立つ瀬がないねぇ、大人としても、冒険者としてもだ……


「――す、すみません、援護ありがとうございます!」


「おう、ミーティアのお嬢さんもイリアも、しっかりできてたぞ」


 俺とクレザースの坊ちゃんが隠れる場所まで、二人の少女が駆けて来る。

 二人がミオガキの姉ちゃんを助けに出て行った時は肝が冷えたが、しっかりと動けていたのには安心した。

 特に、イリアだ……装備が身体に合っているからか、【念動ねんどう】とか言う能力も使いやすそうだ。

 戦いたくてうずうずしている感じにも見えるが、よく抑えたな。


「キルネイリア、魔力は平気か?」


「はい、坊ちゃん……一度しか使ってないので。か、回復は大丈夫です」


 クレザースの坊ちゃんが、ふところから魔力回復のポーションを差し出す。

 しかもそれ、【クレザースの血】で強化した奴だろ……戦ってる二人にやれよそれ。

 魔力回復薬は超貴重品だ……それでなくても、傷をいやす薬すらも高級品なんだ。

 自然回復でしか治せないものも勿論もちろんある。

 それを簡単に使おうとする辺り、随分と愛されてるじゃないか……イリアも。


「おいおい、しっかりと二人の戦い見ておけよ……本番は【アルキレシィ】が弱ってからだ」


 緩い空気に釘を刺しておかないと、本番で失敗し兼ねない。


「す、すみません」

「すまない……」


 ミーティアのお嬢さんだけは、しっかりとミオガキと姉ちゃんを見てるな。

 羨望せんぼうのような眼差まなざしで、二人の戦いを見守ってる……だがまるで、自分も隣にいたいと言いたそうに……想いをこじらせているようにも見えた。


「おっ。あれは……」


「はい……ロッド先輩がご用意してくれた道具ですね、さっきも一度使おうとしていましたが、【アルキレシィ】に邪魔されていましたし……クラウも試そうとしたんだと思います」


 「ふむ」と、俺はミーティアお嬢さんの言葉に納得する。

 【クレザースの血】は貴重な能力だ……自分が戦えなくなるリスクはあるが、他にも強者が居れば話は全然変わる。

 今回こそそうだ……スクルーズの姉弟、強さだけで言えばピカイチ。

 経験こそ少ないが、成長すれば他国のバケモノ・・・・・・・にも引けを足らないだろうよ。


「姉ちゃんの方に渡したのって、【風送球ふうそうきゅう】だったよな」


「ええ。普通なら……少量の風を発生させるだけの球体、でも【クレザースの血】で強化されて、しかも魔力依存の発動条件を考えれば」


 そう言うこった。

 普段はそよ風のような優しい風を出すに過ぎない、一般家庭で使われるような市販品。

 だが魔力によって調節される風量は、【クレザースの血】で強化された事で初めて、ダメージを与えられる威力となる。


「【アルキレシィ】でさえ浮かび上がらせるか……すげぇな」


 ミオガキの姉ちゃんが投げた球体は【アルキレシィ】の真下に転がり込み、その瞬間に異常なまでの風を発生させて【アルキレシィ】の黒い体躯たいくを持ち上げた。


 そして、持ち上げられた【アルキレシィ】の隙だらけの腹部……そこに突如、有り得ないほどのへこみが出現した。

 これはさっきもやってたな……ミオガキの蹴りだ。


「あ、あの巨体を……フッとばしやがった」


 ドッ――スゥゥゥン……と、オレたちが見る獅子は威厳もない姿で転んだ。

 A級冒険者でも中々に手が出せない亜獣【アルキレシィ】……それを軽々といなすこの姉弟……まるで立場が違う。

 世の中は広い……亜獣をまるで遊びのようにあしらう、そんな子供たちがいるとは……オレもまだまだだな。

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