5-110【黒き獅子と半端な子8】



◇黒き獅子と半端な子8◇


 その巨体は、まるでブルドーザーだ。

 うなりをあげる口元はよだれまみれで、悪臭だと分かるほどの臭いを漂わせている。

 頭部の二本の角からは魔力の奔流ほんりゅうが発生して、雷光と言わんばかりにバチバチと音を鳴らす。

 特徴的な黒い身体からは、獅子と名をかんする最大の証……たてがみが生えている。


「ドデカいライオンだと思えば……」


「そうね。動物園にいると思えば……」


「――いないよ!」

「――いないわよっ!」


 二人してノリツッコミをして、おたがいに反対側に走る。

 挟撃きょうげきする形で、大きな獅子に向って行く。


「【貫線光レイ】――!!」


「【石の槍ストーンスピア】!!」


 同時攻撃、しかもクラウ姉さんとは少しずらした……どちらかをけてもどちらかが当たるような位置で。


「――グルルルル……グルワァァァァァッ!!」


 クラウ姉さんの光線と俺の投げた石槍、どちらも完璧なタイミングだったが。

 【アルキレシィ】は咆哮ほうこうをあげて……相殺した。


「なっ……」


「くっ、身体に響くっ!」


 スタン攻撃のようにビリビリと、身体がしびれるような感覚に襲われる。

 すぐさま離れ、俺もクラウ姉さんも自分の身体を確かめるが。

 【アルキレシィ】は、今度は俺をターゲットにしたのか、追撃してきた。


「マジ……!?」


 嚙まれたら一溜ひとたまりもない、絶対即死する。間違いない。

 全速力で走り、【石の槍ストーンスピア】で牽制しつつ周りを確認。

 クラウ姉さんは左手に持っていた……道具に魔力を籠め始める。

 ロッド先輩が渡してくれた、【クレザースの血】で強化した道具だ。


 そして、その籠められた魔力に反応し、ターゲットを変更する【アルキレシィ】。


「……ちょ、こっちだっつの!!」


 クラウ姉さんには行かせない。

 俺はコートから葉っぱを取り出し、【無限むげん】と【豊穣ほうじょう】をもちいて。


「――【葉の飛刃リーフスラッシュ】!」


 投げる。

 空を舞う葉の刃は、まるで手裏剣のように回転し……【アルキレシィ】の皮膚に直撃する、が。


「ガオォォォ――ン!!」


 全然効いてない……威力は上げてるんだぞ!

 まるで木の葉でも浴びせられて怒ったかのような、そんなリアクションだ。

 そうして、【アルキレシィ】はクラウ姉さんに……





 私はその道具に魔力をチャージする。

 離れて距離も取った、道具のレクチャーも受けたし……行ける。

 ライオンはミオに向かったし、このまま一気に。


「……って!魔力に反応したっ!?」


 こちらを向いた黒いライオンは、私を忌々いまいましそうに睨んでいる。

 まるで、魔力が鬱陶うっとうしく感じているような……そんな感じ。


 ミオの攻撃を受けてもいるけれど、全然動じない。

 マズい……まだチャージが。


「キャンセルっ!」


 仕方が無い……私は翼を再度広げて、宙に舞う。

 この広間は相当広い、私が飛んでもまだ余裕がある。

 しかし、【アルキレシィ】は。


「――グルァァァッ!!」


 跳躍ちょうやく――した。

 魔力を帯びた脚力で、一気に私の高さまで追い付き……私の翼を、その獰猛どうもうな爪で……切り裂く。

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