5-109【黒き獅子と半端な子7】



◇黒き獅子と半端な子7◇


 俺たちの準備は万全だ……先行したはずのあの馬鹿が居ないと言う懸念けねんもあるにせよ、もうこれ以上の深部は無いと言う。

 つまり、この広間のさらに奥……そこが、【アルキレシィ】の根城という訳だ。

 この【ハバン洞穴】を駆けて来て、洞窟内の広さは異常な物だった。

 【アルキレシィ】が途轍とてつもなくデカいと言うのは聞いているが、四足歩行の動物が基になっていると考えれば想像もつく。

 黒い獅子……亜獣【アルキレシィ】、討伐戦だ。





「……は?」


 俺の頓狂とんきょうな声を、全員が同じ理由で納得しただろう。

 俺たちは順に……俺、クラウ姉さん、ミーティア、イリア、ロッド先輩、グレンのオッサンと並んで奥へと侵入した。

 それはもう慎重に、警戒に警戒を重ねての行動だ……なのに、なぜそんな馬鹿らしい声が出せるのか……答えはこうだ。


「い、いない……?」


 ミーティアの戸惑とまどいに、俺は。


「だけど、気配はある・・・・・


 そう……気配がするんだ。

 邪悪なほどの魔力の波動と……縄張りに入られた怒りを、そのままぶつけてくるような圧力が。


「――下よっ!!」


「下!?」


 クラウ姉さんの言葉に、俺は身構える。

 俺とクラウ姉さんが戦力の中枢ちゅうすうだ……ロッド先輩は【クレザースの血】を使用しているから長時間戦えないし、オッサンにはイリアとミーティアを守ってもらいたい。

 ミーティアには状況を見ながら援護を頼んでいるが、転生者である俺とクラウ姉さんを除いて……正直に言えば戦力としては考えていない。

 ただ……俺にとっては、確かにそこにある心強い存在バフだ。


「影だっ!!来るぞっ!散開しろっ!」


 下って影かよっ!


「――ミーティア」


「え」


 俺はシュン――と、一瞬でミーティアの隣に出現し、腰を引き寄せてジャンプする。

 クラウ姉さんは【天使の翼エンジェル・ウイング】を広げ浮かび上がり、グレンのオッサンはイリアを抱えて移動、ロッド先輩だけが入口の方に戻り、その影が迫る前に離れる。


「影が動いてる……まさか、あの中か!?」


 その影は異様に幅広く、俺たち六人が集まった状態よりも大きかった。

 悠々と移動し、停止した先は……クラウ姉さんの真下。


「姉さん――行くよっ!!」


「分かってるわっ!!」


 影から、大きな何かが飛び出す。

 分かるさ……これが【アルキレシィ】だってんだろ。


「――【貫線光レイ】!!」


 飛び出す何かに、クラウ姉さんは光線を放つ。

 下方からの飛び出しと、上方からの魔力の波動。


 しかし、いきおいに勝るのは飛び出した何か……光線をはじきながら、クラウ姉さんに迫って行く。


「……このっ!!私の魔力をはじいて……っ!」


 クラウ姉さんは翼を広げて、その何かの飛び出しを避ける。


「これが……【アルキレシィ】だとっ!?」


 小さく呟いたのはオッサンだ。

 事前の情報で、四年前よりも大きいと言うのは観察報告書からも伝わっていたが、グレンのオッサンもおどろくほどだったようだ。


「……マジかよ、ライオン??」


 ミーティアを抱える俺は、冷静に彼女を降ろし言う。

 クラウ姉さんが翼を羽ばたかせて着地すると、【アルキレシィ】も少し離れた場所に降り立った。


「あれが……」


 クラウ姉さんの光線によって、その影が剝離はくりしていく。

 その姿は正しく黒き獅子……大きさは、神話のドラゴンもおどろくほどの巨体だ。

 大きな二本の角からは魔力のほとばしりが怒っており、グルルルルとうなる口元は鋭利えいりな牙が見える。

 そのあぎとだけで、人間なんて一撃だと思わせる。


「……クラウ姉さん」


「平気よ。私たちで……あのライオンを弱らせる、いいわねミオ」


 うなずく俺。

 ミーティアには離れるようにうながし、巨大な黒獅子と対峙たいじするのは……俺たち、スクルーズの姉弟だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る