5-108【黒き獅子と半端な子6】



◇黒き獅子と半端な子6◇


 あの野郎……奥に続く道まで壊して行ってやがる!

 それを退けるのは俺なんだぞ!!


「【無限むげん】――!!」


 もう崩れている岩を、俺は一瞬で小さくする。

 サイズがデカくて一つのパーツだと、やりやすくていいな。

 さっきの壁面のような崩れ方だと、一つ一つを操作しなくちゃいけないから、どうしても操作が遅れてしまうからな。


「おお~、すげぇなその魔法っ」


 オッサンは無邪気におどろくけど、クラウ姉さんの視線が痛てぇ。

 探るような感じで俺を見てるんだろうけど、今追及してくれないだけありがとう。


「高難度魔法は、A級冒険者でも使える奴は少ない……しかもオリジナリティの溢れる魔法。流石さすがと言うべきか」


 ロッド先輩が捕捉ほそくするように言うが……そういうもんなのか?

 もしかして、数多くいる転生者の能力って……そういうあつかいで通ってるんじゃ。


「……ミオ凄いっ」


 なんだかミーティアが嬉しそうだけど、俺は胃が痛い。

 キリキリするよ……っと、開けた場所に……出る。


「ここが、奥か?」


「だな……全員警戒だ。【アルキレシィ】はデケェぞ」


 そういうオッサンだが……デカい存在なんて見えない。

 それに、先行していた筈のあの馬鹿の姿もない。


「フドウくんがいない?」


「だね……どこ行ったんだアイツ」


 ここまでは一本道だったよな……どこに消えた?

 まさか、途中の穴に落ちたとかいうマヌケじゃないよな?


「……ア、【アルキレシィ】は……どこに」


 俺たちは周囲警戒しつつ、さらに奥へと進む。

 しかし……一定の場所へ足を踏み入れた瞬間。


「「「「「――!!」」」」」


「おお……すげぇ魔力だな、身体がビリビリしやがる」


 オッサン以外の若者は、全員が息を吞んだだろう。

 マジかよ……この威圧感いあつかん、身体の奥からにじみ出てくるような、圧倒的な恐怖……これが、亜獣。


「奥にいるな……魔力だけで、俺たちを威嚇いかくしてるんだ」


「……フドウくんはいなさそうだけど」


「そ、そうね」


「……」


 俺、クラウ姉さん、ミーティア、イリアの順に。

 ロッド先輩は道具の準備をし始め、グレンのオッサンは後方を確認していた。


「よし、最終準備だ……退路は、平気だな」


 オッサンは撤退も視野に入れている。

 そりゃそうだ。依頼者でもあるグレンのオッサンは、学生である俺たちを無事に帰さなければならないと言う条件のもと、今回の討伐依頼を【ギルド】に通したんだからな。


「スクルーズ弟。これを、姉もこれを使え……」


「ども」

「助かります」


 受け取るのは、魔法の道具。

 ロッド先輩が【クレザースの血】で強化した、特注だ。

 【アルキレシィ】の事前情報的に、獅子の魔物であることは間違いない。

 となると、爪や牙……咆哮ハウルなんかもあるだろう。

 本来の名前は【ガルノレオ】って名前の、獅子の魔物だ。

 それがイリアの母親であるエルフを喰い、進化した姿。


「ふぅー……」


「緊張するわよね、流石さすがに」


 息を吐く俺に、クラウ姉さんが言う。


「だね。ま、俺よりもイリアの方がヤバそうだけど」


「それはそうでしょ。親の、かたきなんだから」


 強張りつつも真剣な顔で、【ハバン洞穴】の最奥さいおうのぞくキルネイリア・ヴィタール……親のかたきと言うその執念の物語は、最終章だ。

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