5-104【黒き獅子と半端な子2】



◇黒き獅子と半端な子2◇


 走る。走る。走る。

 隊列など気にせず、ひたすらに地下を下りて行く。


 どっかの馬鹿が魔物を倒しまくっているからか、道中に魔物は一切出ず、楽なもんだ……そう言えればどれだけ心が休まるか。


「姉さん!」


「分かってるっ!任せなさい――」


 今一番やらなければいけない事は……あの馬鹿に追いつく事だ。

 幸い、穴を追えば行き先は分かる……だから、クラウ姉さんに先行してもらう。

 一番早く動けるしな。


「たの――んだ……って、早え!」


 ビューーン……と言う擬音が付きそうなほどのいきおいで、クラウ姉さんは斜面しゃめんを駆け下りて行く。


「は、早いですね……クラウは、はぁ……はぁ……」


「そ……そうね、絶対に張り合えないわ」


「ありゃあ……一級品だな。オレでも無理だ」


 イリア、ミーティア、グレンのオッサンの順に感想を言う。

 ロッド先輩だけは何も言わないが、無言で見てるから多分おどろいてる。


「でも、これでユキナリの奴に追いつければ……先を越される事もないよ」


 俺は後ろにいるイリアに言う。

 イリアだって、考えはしていたはずだ……かたきを、先に倒されるかもしれないと。

 そもそも、【アルキレシィ】を簡単に倒せるなんて思ってはいないが……転生者は別と――俺は考えている。


 イリアに悲願を達成させる鍵をにぎるのは、俺とクラウ姉さんだ。

 その為にも、ユキナリの奴に邪魔されてたまるか!


 そんな俺の言葉にイリアは、ガチガチな笑顔で答える。


「……は、はい!ありがとうございましゅ!」


 い、いや……気を張り過ぎだって。嚙んでるし。

 ま、まぁでも。


「ははっ……元気で何よりだっ。本番まで取っておけよっ!」


 緊張して何も出来なくなるよりはいい。

 その分、俺たちがカバーすればいいんだ。


「さぁ。走るぞっ」


「はいっ」

「ええっ」


 クラウ姉さんなら、きっと追いついててくれるはずだ。

 だから、俺たちはそれに追いつくためにダッシュだ。





 走る。広い洞窟内を全力で駆けて、目的であるのは黒い髪の青年だ。

 ミオが言うには、さっき揺れを起こしたのはユキナリ・フドウ……地下に行く過程でやったのだと予測は出来たけど、理由は?

 彼の依頼達成内容は……鉱石の調査だってミオも言ってる。

 それを無視して地下に進んで行っているのなら……目的なんて一つしかない。

 【アルキレシィ】――始めから、それが目的なんだわ。


「――いたっ!」


 私は【天使の翼エンジェル・ウイング】の翼をブレーキ代わりにして、急停止する。


「――んお?」


 何とも間抜けな顔で……その青年は私を見る。


「あれ……なんでここに人が――って言うか、首席ちゃんじゃん!?」


 だれが首席ちゃんよっ!!

 でも……私のことは知っているようで一安心……後は、話を。


「私はクラウ。フドウくん……あなた、もしかしてこの先に?」


「……う~ん、首席ちゃんじゃダメかぁ……クラウ、クラウ……お!クラっちってのはどうだ!?」


 わ、私は機械かっ!!


「ふざけないで。質問に答えなさい……あなたは――」


「――なら、転生者ちゃん?」


「!!」


 しゃくり上げ、歯を見せてニヤリと笑う……ユキナリ・フドウ。

 こいつ……私が転生者だと気付いて――いや、もしかして最初から?


「なぁ、どうなん――」


「だったら何?それとこれとは関係ないわ」


 私の振り切ったような返答に、ユキナリ・フドウはおどろいたように目を丸くして。


「くっ――ははっ……かっはははははははは!!」


 口角をあげて……盛大に――笑ったのだった。

 不気味なほどに、眼光をギラつかせて。

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