5-105【黒き獅子と半端な子3】



◇黒き獅子と半端な子3◇


 この男……ユキナリ・フドウ、絶対に要注意人物だわ。

 私の事を初めから転生者だと決めつけてる……なんなのよっ。


「目的は何?笑ってないで答えなさいよっ!」


 笑い続けるユキナリ・フドウは、腹を抱えて涙目だった。


「ははははは……い、いや……だって、かはははっ……面白れぇんだもん」


 どこが!!


「ふざけ――」


 私はいっその事、このまま戦闘に入ってやろうかとも考えたが、ユキナリ・フドウは飛び出そうとした私に手のひらを向けて……制した。


「ちょい待ちっ……待って待って、言うからさ」


 私はすでに戦闘態勢……【クラウソラス】を出す手前だった。

 それに気付いたのか、ユキナリ・フドウは自分の指を私の右手に向けて。


それ・・、今の俺には痛いんだよね……ここまで来るのに魔力かなり使っちまったし、無駄な戦闘はしたくないんだ……分かんだろ?」


「――それなら黙って答えなさいよっ!」


 いちいちイラつくわね……この男。

 しかも、【クラウソラス】の特徴まで知っている感じで、余計に腹立たしい。

 前世でも、さぞかし沢山の人をイラつかせたのではないか……そう思わせるユキナリ・フドウの言動に、私が爆発しそうになっていると。


「はははっ、違いないなぁ!」


 今度はひざを叩いて笑い出す始末しまつ

 くっ……この……!!馬鹿にしてっ!


「――クラウ姉さんっ!!」


 背後から、聞き慣れた声。


「!……来たっ」


 これで私の役目は一旦おしまいね……よかった、爆発する前にミオが来てくれて。


「ん?おー!!ミ、ミオっちじゃないかぁぁぁぁ!」


 ミオの姿が見えると、途端とたんに明るくなるユキナリ・フドウ。

 まるで、長年の友人と久しぶりに再会したような顔だ。


 は?何このリアクションの違い……ユキナリ・フドウ、なんなのよいったい!


「じゃないかぁ――じゃねぇよ!お前何やってんだよ!こんな所で!一人で!馬鹿か!!」


「うっはっはっはぁ……ひっでぇ言われよう!」


 ミオは私に並び立つと、小声で「グッジョブ」と言って背中を叩いた。

 あれ……なにこれ、普通に嬉しいんだけど。


「う、うん……」


 更に背後から続けて、グレンさん、ロッド先輩、ミーティア、イリアと……ぞろぞろと追いついてくる。

 イリアだけヘロヘロね……ミーティアも少し息切れしているかしら。


「……あれ、依頼者のおっちゃんじゃん。どうしたんすか?」


 グレンさんに気付き、ユキナリ・フドウはおどろいたように指を指す。

 目上の方に指は指さない!最低限のマナーでしょ!


「おう……ユキナリだったか、依頼は達成できたか?」


 グレンさんは頭を搔きながら、疲れ気味に言う。

 ユキナリ・フドウは大きなカバンを持っていて、おそらく中身は鉱石なのだろう。


「……いやーそれが……珍しいもんは全然採れないっす」


 でしょうね。そもそも、その依頼事態がフェイクなのだから。

 それと……私との話は?

 いや分かっているわ……ここまで人が集まったら、転生者の話は出来ない。

 この男は自分の事を宣言しているだろうからいいだろうけど、私や……ミオは違う。


「……そうか、なら……依頼はそれまででいい」


 グレンさんが言う。

 ここでこの男の依頼を完遂させるつもりね。


「は?……いやいや、奥に行けばあるでしょ?」


「……フドウくん、止めておきなさい」


 今、私たちは開けた場所に出ている。

 洞窟天井てんじょうまで5メートル、横幅は20m《メートル》近くもある場所だ。

 この【ハバン洞穴】……入口こそせまかったが、中が異常に広かったのだ。


「なんで?」


 ユキナリ・フドウは首をかしげて、分からないという風に言う。

 本当に分かっていないのか、それともとぼけているのか……


 どちらにせよ、ふざけてるのは分かるわ。

 とっちめてやりたいっ!!

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