5-98【その怪訝は闇を孕んで7】

※この話には、地震と言う直接的なワードが含まれています。

 不快と思われる方もいらっしゃるかもしれません、ご了承ください。

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◇その怪訝けげんは闇を孕んで7◇


 二人の少年と少女が、人目もはばからずに笑い合っている。

 その二人は……私の弟と、友達で。


「ど、どうしたのでしょうか……二人は、急に笑い出して」


 私の隣に座るハーフエルフの少女イリアが、戸惑ったように言う。

 確かに、気にしてなければいきなり笑い出したバカップル。


 でも、私は見てた。


「何かを言って……同時に吹いてたわね」


 ミオが馬鹿な事を言ってミーティアを笑わせたか、ミーティアが天然のような事を言ってミオを笑わせたのか……そんな事じゃない、同時だった。


「へぇ……気が合うのですね」


 気が合う……そう見える、わよね。

 私にも見えるわ、不覚にも。


「まったく、こんな状況でイチャついて……ごめんねイリア、弟が」


「え――い、いえいえ!とんでもないです、逆に安心したくらいで……」


「安心……?」


 あれをどう見れば安心できるのよ、この子は。


「いえ……その、私が関わった事で……お二人の時間を邪魔しているのではと、思っていたんです……だから、ああして笑い合うお二人を見て……なんだか心がホッとして……変ですか?」


「……」


 そんな事考えてたのね。

 確かに、入学してからこっち……ミオは忙しくイリアに付きっ切りに近い活動だったと思う。

 自分の事すらほったらかしで、ミーティアの事も見て無いのかと思う時もあった。

 私は、ミーティアに時間がない事を知っているから……そう言えるけど、ミオは知らない。

 私からミオには言えないし、かと言って二人に何かを急かす事もしたくない。


「クラウは、お二人の御関係がお気に召しませんか……?」


 無言だった私に、イリアはマズいと思ったのかそんな事を言う。


「――ち、違う……くはないけど、反対はしないわよ……」


 賛成もしたくはないけど、ミーティアの事は応援するわ。

 それにミオが応えるかどうかは、私の問題じゃない。


「そうは見えませんが……」


 私の顔をのぞいて、イリアが恐々こわごわと言う。

 どんな顔をしていたか……自分でも分からない。


「見ないのっ」


 私はイリアの顔をグイッと押し返して、大岩から飛び跳ねて降りる。


「す、すみません……って、クラウ!?」


「いいから、あっち行くわよイリアっ」


 ズカズカと、私はその二人の方に歩いて行こうとする。

 イリアが止めようとするが、邪魔してやろうと思って。


 しかし、そんな瞬間だった。


 地下から突き上げてくるような、ズン――っとした衝撃。

 ゴゴゴゴゴ……と、地響きを鳴らして……洞窟内に木霊こだまする。


「――なっ」


 地震っ!?少し、大きい――っ!


 大きな揺れに、私もイリアも体勢を崩してしゃがみ込む。

 周りを見渡すと、ミオが倒れそうになったミーティアを支えて、ロッド先輩も洞窟の壁に手をついていた。


「ク、クラウ……っ!」


 イリアが困惑したように、私に手を差し伸べる。

 私はその手を取って。


「大丈夫よ、直ぐに治まるわ……落ち着いて、こういう時は下手に動かないで」


「は、はい……」


 イリアを落ち着かせると。

 最後の一人、グレンさんが……


「ガガ、ガキどもぉぉっ!お、おお、落ち着けぇぇぇ!」


 貴方あなたが落ち着いてっ!

 一番の年長者がそれじゃダメでしょう……と言うか、A級冒険者なんでしょ!?

 なんで地震くらいで……地震、くらい?


「そ、そっか……ないんだ」


 私は気付く……この世界では、地震なんかそうそう起きていない事に。

 前世で生きていた日本は、どこかしらで必ずと言ってもいい程の地震が起きている……だから、私にはおどろくほどの事ではなかったんだわ。

 でも、異世界では違う……地球で言う外国と同じように、大きな地震と言うのは中々に起きない現象なのね。


 だから、私が一番冷静でいられる。

 なら、言葉を掛けないと。


「――皆、落ち――」


 しかし……私と同じタイミングで声を出す人物が……一人だけいた。


「――大丈夫っ!黙ってればその内治まるから!縦揺れだし、衝撃が大きいだけで被害もない!だからオッサンも落ち着けっ、ロッド先輩も動かないで頭上注意っ!」


「……ミオ??」


 その言葉は……前世で聞いた覚えがあるような文言で。

 まるで、経験したことがあるような言い回し。

 そんな言葉を、ミオが……この世界で産まれた私の弟が、口にしたのだ。

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