5-97【その怪訝は闇を孕んで6】



◇その怪訝けげんは闇を孕んで6◇


 【ハバン洞穴】に侵入し、歩き始めた俺たち……しかし。


「……何も出ねえじゃん」


「そうね、魔物も……鉱石も、ユキナリ・フドウさんも」


 俺が愚痴ぐちるように言った言葉に、ミーティアが答える。

 本当はミーティアは後衛なんだけど、飲み物を俺にくれてたんだよ。

 俺は、水筒に入れられた暖かい紅茶を頂き……白い息を吐きながら言う。


「はぁ~美味うま……それにしても、ここまで冷えるとはな」


「うん、本当ね……周囲が川とはいえ、地下に進むたびに寒くなって……」


 ブルりと身体を震わせて、ミーティアも紅茶を飲む。

 少し先の大岩に座って、クラウ姉さんとイリアも休憩中だ……ロッド先輩とオッサンは周囲警戒中で、俺はと言うと。


「ミオの方はどう?」


「ん?……ああ、こんな感じ」


 聞いてくるミーティアに、俺は先程までの作業場所を見せる。

 そこには、大きな穴が開いていた。


「……凄い穴ね」


「だろ?……多分だけど、ユキナリの奴だよ」


 その穴は、鉱石を掘った跡……だと思われる。

 グレンのオッサンが始めに出していた依頼は、【ハバン洞穴】の採掘調査だったからな。

 律儀に地面や壁を掘って、探しているんだろう……しかしだな。


「このくらいの穴、さっきもあったわよね」


 進んできた方角を見ながら、ミーティアはあきれ気味に言う。


「……だなぁ。あいつ……手当たり次第に掘削くっさくしてんだと思うよ、掘っては別の場所、掘っては別の場所……って感じでさ」


 そうやって先に進んでいるんだろうけど、魔物も出ないからな……倒してるんだろうが、そろそろ多少の音が聞こえて来てもいいと思うんだけど。


 俺とミーティアは、そんな穴だらけの洞窟内を見ながら……同時に。


「まるで虫に喰われた野菜だな……」

「まるでネズミに食べられたチーズね……」


「「え」」


 重ねられた言葉に、俺とミーティアは顔を見合わせて。


「はは、あははっ……」

「ふふっ……ふふふっ」


 吹き出す俺と、口元を押さえて笑うミーティア。

 こんな緊迫した場所なのに、同じ様な言葉でもそれぞれ違う感性……息があったタイミングでの言葉で、面白いように笑ってしまった。


そろったね……」


「ははっ、本当だなっ!」


 こんな甘ったるい展開になるとは思わなかったぞ……でも、すげぇリラックスしたかも。


『動悸効率減少……血流安定……呼吸リズム正常……ミーティア・クロスヴァーデンは、精神安定剤か何かですか?』


 うるせっ。


 大きな声は出さずに、こらえるように二人で笑い合う。

 控えめに言っても、今までの俺にはない……贅沢な瞬間だ。

 こんな時間を、ミーティアと言う女の子と……もっと持ちたい。


 この時の俺は心の片隅で……そう、思い始めていたんだ。

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