5-96【その怪訝は闇を孕んで5】



◇その怪訝けげんは闇を孕んで5◇


 俺たちは休憩をはさみつつも、順調に道中を進み……一度も魔物との遭遇エンカウントがないまま、【ハバン洞穴】は目の前に迫っていた。


「凄いな……魔物と出くわさないだけで、こんなにも早く【ポラ】との中間まで来れるのか」


 ロッド先輩が言う。


「そうですね……二時間くらい、かな」


「だな。順調すぎるとも言えるが……」


 出発前に馬車を頑丈にして、休憩の時には馬の蹄鉄ていてつも強度を高めておいた。

 そのおかげで、馬の疲労感も少なく進んでこれたんだよ……だろ?ウィズ。


『その通りです。従来の馬車ならば……半日は掛かる計算ですし、魔物との戦いをふくめればもっとです』


 だよな、前回がそうだったし。

 朝に出立して、午前中には辿たどり着けるんだ……早いなんてもんじゃない。

 なにせ前は、【ポラ】から【ステラダ】に帰れたのは深夜だったからな。


「――お前ら、【ハバン洞穴】に着くぞ。準備しろー」


「「了解です」」


 俺とロッド先輩は、オッサンの言葉に答える。

 後部座席にいる女子三人からも「はい」と返答があった。


 よし……準備だ。





 馬車を降り、目の前にあったのは……洞窟の入口な訳だが。


「――せっま!!」


「ほ、本当ね……」


 その入り口は、大人がギリギリ入れる程度だ。


「【アルキレシィ】が出てこられない様に……封じたのさ」


「ああ……そういう事ね」


 なるほどな、事件以降に被害が無いのは……それも理由って事だ。


「じゃあ……行きますか。大丈夫か……イリア?」


「はい……お二人のおかげで、大分リラックス出来ましたから。私は……皆さんを信じています、頼りにしています」


 俺の言葉に、イリアは答える。

 イリアはミーティアとクラウ姉さんを見ながら言う……


 そうか、グッジョブだよ二人共。


「おーし、気を張れよお前ら……ここから先は、危険地帯だからな」


 A級冒険者……グレン・バルファートのその一言で、一気に緊張感が増す。

 緊張させるな――と言いたいところではあるが、これは言っておかないとだな。

 ましてや依頼者だ……俺たち学生に死なれても当然困るし、それでなくても無理を通した・・・・・・今回の依頼だからな。


「――了解だよ、グレンのオッサン……オッサンも、守りを頼む」


「お、おう……」


 俺は真剣に、その言葉を返す。

 オッサンは「どうしたいきなり」って感じで頭を掻いてる。


 オッサンには、【アルキレシィ】がいるであろう深部、そこまでのイリアの護衛を頼んであるんだ。

 だから、もしもの時は戦ってもらう。


 それにともなって、洞窟内の探索と踏破とうはは、俺とクラウ姉さんで……ロッド先輩とミーティアはそのサポートだ。


 ロッド先輩には“血”を使って貰って、魔法の道具を使わせてもらう事にした。

 使うのはクラウ姉さんとミーティア……それぞれ戦闘やサポートに適した物を装備している。

 イリアは、本番直前まで「なにもするな」だ……道は長いと言うし、ユキナリの奴と出くわす可能性も高い。

 魔物だっているはずだし、体力も魔力も温存させておきたい……言っちゃなんだが、このメンバーの中で一番少ないからな。


「よし、防寒具も着たし……こっちの準備はいいよ、姉さんは?」


「誰に言ってんの……大丈夫よ、少しぶかぶかだけど」


 う、うん……用意できたのが大人用しか無くて。

 クラウ姉さんが着る厚手のコートは、マジでデカい……クラウ姉さんが小さいのもあるけどさ。


「う、動けるならいいか。よし……行こう」


 本人は大丈夫そうだし、いざとなったら脱ぐだろ。

 洞窟内……入り口付近はまだ暑いけど、さて……どれだけ冷える事やら。

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