5-99【その怪訝は闇を孕んで8】



◇その怪訝けげんは闇を孕んで8◇


 まさか、こんな洞窟の中で地震に見舞われるとはな……それにしても、デカくはなかったが、縦揺れで衝撃だけは大きかったな。

 これが横揺れだったら、もっと長引いただろうし。


「平気か、ミーティア」


「え、ええ……あり、がとう……」


 倒れそうになったミーティアを支えた俺は、ゆっくりと彼女の姿勢を戻して……周りを見渡す。

 うん。大丈夫だ……洞窟内に被害はない。


 なぁウィズ、この揺れって……自然現象じゃないよな?


『――はい。地下からの魔力を感知しました……おそらく、ユキナリ・フドウが起こした現象でしょう』


 やっぱりな……前世で地震には慣れてるとは言え、こんな世界だ。

 ましてやこんな洞窟の中で、ピンポイントで地震が起きてたまるかよ。


「……あ、治まったみたい……よかったぁ」


 ミーティアが、はぁ……と息をきながら言う。


「そうだな。ま、よくある事だよ」


 安心させるために、俺が何気なく言ったその言葉。

 しかし、それを聞いたのか、つかつかと歩いてくる……小さな少女。


「――ないわよ」


「?……クラウ姉さ――んっ!!」


 怖い顔で、クラウ姉さんは俺の肩をつかんだ。

 まるで、犯人に詰め寄る刑事のような……そんな顔で。





 疑惑……この世界で産まれたミオが、ここまで柔軟な対応が出来る?

 A級冒険者であるグレンさんですら、この程度の地震におどろいていたのよ?

 イリアも、まるでこの世の終わりのような顔で私にすがっていた。

 ミーティアだって怖がっていたし、ロッド先輩もあせっていたのが分かる。


 でも……この子ミオは。


「――地震、怖くなかったの?」


 私は、弟の顔に鼻先が近付くほどに寄って、視線を逃げられない様に両手で顔を固定する。


「は……そりゃあ、怖いけど……そこまで――」


 ミオの言葉が、ピタリと止まった。


「そこまで、なに?」


「い、いや……その……えっと」


 手につたわるミオの体温が、ほのかに上がった気がした。

 やっぱり、何かを隠してる。


「言いなさい。ミオ――」


「……」


 視線を逃す事が出来ないミオは、この一瞬で何を考えているのだろう。

 私からしたら……言い逃れ出来ないほどのパワーワード。

 地震大国――日本……そこに長年住んでいたからこそ理解できる、異世界との大きな相違そうい

 地球、日本の外……外国ではほとんど起きない、大きな地震……それこそ先程のような小さな地震でも、外国の方がおどろいているのを見かけたことがある。

 ニュースになるような大地震でもない限り、諸外国しょがいこくで起きている地震は知らない……でも、私は知ってる。


 日本では、年間千以上を超える地震が起きているが……外国は違う。

 ハリケーンや豪雨よりも、その数は圧倒的に少ないという事を。


 だからこそ、この世界の人たちはおどろいた。

 小さな地震でも、神の怒りに触れたかのような……そんな恐怖を叩きこまれる。

 あのイリアの顔を見れば分かる、対応の違いで、その素性が……知れる。


 さぁ……ミオ。

 貴方も私と同じ――転生者……そうなのではないの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る