5-93【その怪訝は闇を孕んで2】



◇その怪訝は闇を孕んで2◇


 【ハバン洞穴】は、【ステラダ】と……俺がこの前依頼サポートでイリアと行った、【ポラ】の町と丁度中間地点だ。

 【ハバン洞穴】は、周囲にいくつもの川が流れており……その影響で涼しいのだと言うが……防寒具が必要なほどなのか?


 俺は、馬車に乗せた防寒具……厚手のコートを見ながら思う。

 すると、隣に座っていたミーティアが。


「大丈夫。【クロスヴァーデン商会】でおろしている商品だから、性能もバッチリよ」


 にこりと笑みを浮かべて、そんな事を言う。

 もしかして……この装備全部?


「なぁミーティア……さっきオッサンと話してたけどさ」


「え?うん……」


 俺が思うに……この防寒具全部。


「今回これを用意したのってさ、オッサンだったよな?……だけどもしかして、ミーティアが?」


「……。……。……うん」


 長い間の後、認めたミーティア。

 視線を俺かららして。


 やっぱり……オッサンはこの防寒装備一式を、【クロスヴァーデン商会】から仕入れて……しかも、金のないオッサンはミーティアと直接交渉をして、安く仕入れやがったんだな。


「いいのか?」


「――え、うん。えっ……!そ、そんなに心配そうにしないでっ!?」


 ミーティアは慌てて、身振り手振りで俺の不安気な問いに答える。

 だってさ、悪いだろ……それでなくても、最近ミーティアはよく家に帰ってるし……そこら辺からだろ、少しおかしいなって感じるようになったのは。


「でもさ……」


「――本当に大丈夫だからっ!あの装備一式、全部中古品だし……ジルリーネから紹介してもらって、格安で私に譲って貰ったものなのよ……だから、実質タダだから!」


「いや……ミーティアが払ったのかよっ!?」


「そ、そうだけど!でも、本当に……あとで払ってもらうからっ」


「……」


 本当だろうなぁ……出発前、あのオッサンのホクホク顔を思い出す俺。

 なんだか腹立たしくなって来たぞ。


「ほら、ミオも冷静にっ!ねっ?」


 分かってるよ……これは、ミーティアなりの善意なんだ。

 ミーティアがイリアの為に、自分に出来る事をしてくれたと思えば……無下には出来ないよ。


「分かったよ……もうなにも言わない」


「……うん。ありがとう」


 内心ガックリしながらも、追及は中止だ。

 士気を下げる事にもなるし……なによりミーティアが自分から選んだんだ。

 はい、もう言わんぞ。


「――二人共、随分と仲いいわね……デート気分?」


「「――なっ!」」


 クラウ姉さんが、隣に座るイリアと一緒にこちらを見ながら……爆弾を投げてきやがる。

 なにを言ってんだよ、そんな余裕……――って、そうか。

 クラウ姉さんは、イリアをチラチラ確認している。

 きっと、俺とミーティアをからかう事でリラックスさせようとしてるんだ。


「ク、クラウったら……もうっ」


「でも、お二人はお似合いですよ……ねぇクラウ」


 イリアが優しい笑みを浮かべながら、そんな事を言う。

 しかしクラウ姉さんは。


「――いや、それとこれとは話が違うわっ……ほら、今すぐ離れなさいっ!」


「え、えぇ!?」


 情緒不安定か!

 ミーティアは困惑だし……イリアは――笑ってる。

 なら、いいか……こんなのも、たまにはあってもいいかもな。


「はいはい……まったく、かなわないね……」


 俺は小言のようにつぶやき、クラウ姉さんに感謝を感じながら移動する。

 そうして少しの間、俺はロッド先輩と……馬車の旅を満喫したのだった。

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