5-94【その怪訝は闇を孕んで3】



◇その怪訝けげんは闇を孕んで3◇


 馬車移動を開始して……早や二時間ほど。

 窓を見る俺の予想では、そろそろ一回目の休憩地点だ。


 だが……ここで思うのは。


「順調すぎるな……」


「……スクルーズ弟もそう思うか。以前は何体もの魔物が現れたのに……今回はどうだ、一度も無しだぞ?」


「――ですよね」


 俺の言葉に、ロッド先輩も同意らしい。

 実際、前回とはまるで違う馬車の旅になっている訳で……不自然もいい所なんだよ。


「スクルーズ弟……外は見ていたか?」


「はい、見てましたけど……」


 それが何か?

 俺が一瞬だけ脳死で返答をすると、【叡智えいち】さんが。


『――ご主人様。ロッド・クレザースが言いたいことは……風景、その異質さです。遠くの景色まで、視界に魔物が一度も映らないと言うのは余りにも低確率です』


 おお、確かに。

 俺は、【叡智えいち】さんが言った事を引用させてもらう。


「そう言えば、景色にも一切魔物が映り込みませんでしたね……前は結構やり過ごしたりしたのに」


 さも自分の意見かのように。


「ああ……そうだな」


 再度風景を見ながら、俺とロッド先輩はいぶかしむ。

 すると……馬車が止まり。


「――おーし、休憩地点だ……馬を休ませるぞー」


 御者をしているグレンのオッサンが言う。

 その言葉に、全員で下車し……外の空気を吸う俺たち。


 ぶっ続けでここまで来れちまったな。

 実際、どうなんだ……ウィズ。

 魔物が居ない理由……もうさっしがついてるんだろ?


『――ご主人様も分かっていて……とぼけたのですか?』


 そういう時も必要なのさ。

 クラウ姉さんもいるし、あまり賢過ぎてもな。


『ご自分では言わない方がよろしいかと』


 だから、心の中でしか言ってないだろ。


 それよりもだ……魔物が居ないのは、きっとユキナリのやつが道中で倒しまくってるからだろう。

 その証拠……あるんだろ?


『その通りです……魔物が死滅した際生じる、魔力への回帰……それが、この道中で数多くありました。それは、どれも同一の魔力質で倒されたものと思われます……そして、その反応は――この先も続いているのです』


 俺は、背伸びして身体をほぐしながら……【叡智えいち】さんとの答え合わせをする。

 多分だけど……と、俺が見るのは。


 クラウ姉さんだ。


『――十中八九、クラウお姉さまもお気づきになられているでしょう。しかし、混乱させないように……黙っておられるのかと』


 なるほどな……それであの仏頂面ぶっちょうづらか。

 クラウ姉さんの顔は、面白いくらいにむすっとしている……しかし、それを見せない様に、みんなから離れているんだ。


 一人で草原を見て……多分、魔力の反応を探っているんだろうけど。

 ユキナリの魔力、なんだよな……これ。


『そうでしょう。ですが……この魔力量は』


 そうだな……異常なんだよ。

 感覚だけで言っても、俺の数倍はある気がする。

 流石さすがに転生者……っても言えねぇよ、クラウ姉さんよりもあるってことになるんだからな。


 だからこそ……クラウ姉さんも、この異常な魔力量を、いぶかしんでいるんだろうけどな。

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