5-92【その怪訝は闇を孕んで1】



◇その怪訝けげんは闇を孕んで1◇


 俺たちは翌朝、【ステラダ】の東門の前に集合した。

 メンバーは、俺……ミオ・スクルーズをはじめ、姉のクラウ。

 変身をしていないミーティアに、依頼を受けてくれたロッド・クレザース先輩。

 そして依頼者であるグレン・バルファートのオッサン……そして。


 それぞれで軽い挨拶をし、今回の目的を話し合う。

 ミーティアがグレンのオッサンと話している……よく考えたらミーティアとしては、魔物図書でメイド姿で会った以来、ちゃんと話してなかったもんな。

 オッサン、頼むから変な事言うなよ?


 でもってクラウ姉さんと俺が、ロッド先輩と作戦会議中だ。

 今回の馬車も手配してもらったし、何かとよくしてくれるんだよな。

 

「……で、では!皆さん、よろしくお願いしますっ!!」


 そんな中、全員に聞こえるように大きな声ではっし、深々と頭を下げる、今回のメイン……キルネイリア・ヴィタールだ。

 絶対に緊張しているよな、気持ちは分かるけどさ。


「キルネイリア、今から緊張してどうする……落ち着け」


 ロッド先輩が言う。

 そうだぞ、このままだと身体が持たないからな。


「は、はいっ!坊ちゃん」


 だから固いって。


「……はぁ、仕方ないな。所でスクルーズ弟」


「なんすか?」


 ロッド先輩はあきらめて、俺を見る。

 その呼び方からすると、クラウ姉さんはスクルーズ姉だよな。


「馬車の改修は、済んでいるんだな……?」


「ああ、その事ですか……はい、昨日の夜には終わってますよ」


 ロッド先輩が言うその訳は。


 用意してもらった馬車は、クレザース家が所有する高級なものだ。

 しかし人数は六人、一人が御者をするにしても五人が座席だ。

 用意してもらった馬車だと、少し小さかったんだよ。

 それに防寒具などの荷物もあるしな。

 六人分の防寒具に数日分の食糧だ、はばは取るだろ?


「見事なものだ。このままクレザース家うちで使いたいくらいだな」


 ロッド先輩は、俺が【無限むげん】で改修してバージョンアップした自家の馬車を見て言う。

 残念だけど、今回の旅が終わったら……元に戻させて貰う約束だ。


「お言葉は嬉しいですけど、ちょっとそれは」


 俺は笑いながら言う。

 もう、この人の冗談の言い方は分かったからな。


「分かっている。約束だからな……まったく、口惜しい」


「ははっ、ありがとうございます」


 この人は、本気マジで俺の魔法――【無限むげん】を褒めてくれてるんだな。


「――よしっ。お前ら準備はいいかぁ?」


 グレンのオッサンが、ミーティアとの話を終えて俺たち全員に向けて言う。

 ミーティアはササッ――と俺の隣に。


「……平気だった?」


「え、何が?」


「い、いや……なんでもないよ、あはは」


 きょとんとするミーティア。

 大丈夫そうだな。オッサンも普通に挨拶しただけか。


「いよっしゃ、じゃあ乗り込めお前らっ!【ハバン洞穴】へ出発だっ!!」


「……なんだこのオッサンのテンション」


 明らかに、ミーティアと話した後からテンションがおかしい。

 ちらりと横を見ると、ミーティアがにこりと俺に微笑ほほえみかけてくる。

 なんかやったな……この子。


 しかし聞くこともせずに、俺たちは馬車に乗り込んでいく。

 さぁ、出発だ……【ハバン洞穴】へ向けて。

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