5-91【ユキナリの思惑】



◇ユキナリの思惑◇


 ミオたちが団結し、新たな覚悟をしめしていた頃。

 【ステラダ】近郊きんこうの街道をゆく……一人の少年がいた。


 その髪は黒く、漆黒に近い。

 身長はそれほど高くなく、ミオよりも少し低いくらいだ。

 しかし、そんな少年……ユキナリ・フドウは一人ちる。


 誰もいない夜の道で、夜空に向かって。


「はぁぁぁ~あっ、めんどくさっ!」


 ユキナリは大声で、空に向かって悪態をつく。

 明らかに不機嫌であり、背負う大きなカバンをゆっさゆっさと揺らしながら、大股で進む。


「な~んでこんなに遠いんだよっ!なんで歩きなんだよぉ!!」


 ユキナリは、【ギルド】の隅っこに在った一枚の依頼書を持ち、それをにらみながら言う。


「【ハバン洞穴】……収穫鉱石調査、ねぇ」


 【ハバン洞穴】は、ここ数年で閉鎖された冷窟れいくつだ。

 この閉鎖された洞穴で、採掘出来る鉱石の調査をする……それが依頼だ。

 ただそれだけの依頼が、どうして高難易度なのか。

 ユキナリは分かっていない。


 洞穴内は非常に寒く、夏でも防寒具が必要な程に冷え込むのだ。

 更には、採掘できると言う鉱石だが……これがまた硬度が高い。

 ユキナリもそれにそなえて、高級つるはしを用意したが、これで大丈夫だろうかとは思っている。


 鉱石の名は【セルメルタイト】。

 純度の高い銀鉱石であり、魔力をふくむことで昇華した鉱石だ。


「……うぅ……もういいや、飛ぶわ」


 ぐぅぅ……と、腹の虫。

 ユキナリは、何とも言い難い程の浪費家だった。

 これまでの依頼成功で獲得した資金は、基本的には直ぐ食費に使う。

 更には胃が弱く、胃腸薬は常に常備している……しかしそれも、転生者である能力のせいだった。


 ユキナリは、腰に下げたオカリナを手に取り……軽く吹く。

 そして息を深く吸い……告げる。


「来い……【サイレントウイング】」


 瞬間――ユキナリの背に、巨大な白き翼が出現した。

 正確には、魔力が具現化し……翼となったものだ。


「よしっ……これでひとっ飛びだろ。まぁ、腹痛くなるけど」


 その音の鳴らない翼は、魔物【サイレントバット】と呼ばれる巨大蝙蝠こうもりのものだった。

 ユキナリはその白い翼を羽ばたかせ、宙に浮かび上がる。

 夜空に浮かぶ白き翼は、さながら三日月のようにかがやき、そして……ユキナリの目に映るものは。


「おっ――魔物じゃん。いいや、お前らも……俺のちからにしてやるよっ!!」


 まるで別人のように眼光をギラつかせて、ユキナリは叫ぶ。


「――来やがれよ!【グリフォンネイル】!!」


 その技は、二年生の先輩オズマ・シスデセアを一撃でのした、禍々まがまがしい腕だ。

 その黒い輝きを両腕・・に発生させて、ユキナリは瞳に映る魔物を迎撃し始める。


 音もなく空を舞い、一撃にて魔物をほふるユキナリ。

 その口端はゆがみ、徐々に眼光も鋭く獰猛どうもうに変り果てる。


「はははっ!!あははははっ!!おら!おらおら!!……消えろよ雑魚ザコ共!!俺に喰われたかったら!もっとマシな力を付けてこいやっ!!」


 オズマ・シスデセアには見せなかったが。

 【グリフォンネイル】は本来、完全物理攻撃だ……【クラウソラス】のような精神攻撃ではない。

 しかし、ユキナリ・フドウの持つその膨大ぼうだいな魔力が、それを可能にしていたのだ。


 たったの数秒で、視界を埋め尽くしていた魔物はちりとなった。

 ユキナリは、地面に落ち魔力へ還っていく魔物の死骸を見ながらつぶやく。


「あ~あ。つまんねぇの……結局ちからにもならねぇし」


 ユキナリ・フドウ……転生者から産まれた転生者。

 その転生の特典ギフトの名は――【支配しはい】。


 魔物を使役し、その支配下に置いた魔物の能力を得る……魔物使いだ。

 自由気ままな猫のような彼の……今回の思惑は。


「さてと……【ハバン洞穴】へ行きますかね。なんだっけ、ある歴史・・・・?忘れちった」


 ユキナリは依頼書を取り出して、確認する。


「あ!そうそう……【アルキレシィ】だ。一体どんな魔物なんだろうなぁ……どんな力を持ってるんだろうなぁ……!そうだろ、エリアルレーネ」


 星を見上げ、自分を転生させた女神の名をつぶやく。

 ユキナリの目的は……【アルキレシィ】、その魔物を……支配する事だった。


 彼は知らない、その魔物が、進化した魔物……亜獣であると。

 彼は知る事になる、その亜獣が――かつて自分が【支配しはい】した【ガルノレオ】であると。

 遠くない未来、それがきっかけで世界が揺れると……何も知らずに。

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