5-90【急な覚悟も仕方が無い3】



◇急な覚悟も仕方が無い3◇


 おいおい……顔色!?

 青いのを通り越して、白くなりそうだぞ……大丈夫か?


「イ、イリア……その、本当に平気か?」


 心配する俺の言葉に、当のイリアは震えながら。


「へ、へ……平気です……少し、だけ……き、緊張を、してしまっ……て」


 自分の身体を抱くように、震えを抑えようとするように。

 イリアは異常なまでにおびえているように思えた。


 そんな彼女に、何をどう声を掛ければいい?

 こんな時こそ、大人の余裕を……


「イリ……」

「――イリア。こっちを見なさい」


 俺が絞り出すように声を出したのだが。

 それ以上に軽快に、強く……意志の込められた言葉を発する……クラウ姉さん。


「ク、クラウ……私は……」


 クラウ姉さんは立ち上がってイリアのそばに行き、目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 座ったら目線全然だもんな……立ち膝で丁度ちょうどだ。


「冷静に。まだここには何もいないわ……ゆっくり息を吸って」


「は、はい……すぅぅ――」


 イリアの肩に手を置いて、落ち着かせるように。


「――いて」


「――はぁぁ~……すうぅ――はぁぁ……」


 まるで看護だ。

 もしかして、心得こころえでもあるのかな。


 背をさすり、冷静さを取り戻させるその姿に……俺は前世での看護師さんを思い出す。

 この世界にもいるけど、やっぱりどこか違うんだよな。


「……ありがとうございます、クラウ」


「落ち着いた?」


「――はい、感謝します」


「そ。ならいいわ」


 クラウ姉さんは一言だけそう言うと、元の位置に戻り始める。

 俺はそんな姉をじっくりと見ていたようで。


「……なに?」


「あ。いや……なんでもないよ、ありがとう……姉さん」


 イリアにも、俺は気を使って話したつもりだった。

 でも、それだけだと駄目だめだったんだな……イリアは、両親を【アルキレシィ】に殺されたんだ。

 その時が来て、覚悟もしてはいたのだろう……それでも、トラウマは拭えない。

 いくらイリアが前向きで、元気をよそおっていても、心に植え付けられた“両親の死”と言う恐怖は……怖いはずだ。


「――イリア。急に話して悪かった……ごめん」


 俺は頭を下げる。

 甘かったんだ……考えが。

 応援したい、手伝ってあげたい……そう考えながらも、どこか他人事。

 そんな考えでいたのかもしれない。


「い、いえ……!頭をあげて下さいミオっ……私が未熟だっただけですっ!まだ話を聞いただけなのに、これでは直前で失敗してしまいますよね」


「……そんな事は」


 ない……とは断言できない――でも。

 俺は頭をあげてかぶりを振るい、今一度気合を入れて言う。


「そんな事は無いよ。そのために……俺たちがいるんだから」


 彼女が目的を果たせるように。

 もう一度真剣に考えよう……急な展開で無理を言った、それは俺の失敗だ。

 覚悟は持っていても、どうしようもないのが感情だ。

 十代の子供に、何を高望んでいるんだ……俺は。


「頑張ろうぜ、イリア……【アルキレシィ】、倒そうな」


「そうね。がんばりましょうっ。微力だけれど、サポートするから」


「……ええ、しっかりやりなさい……見ているから」


 俺の言葉に、ミーティアとクラウ姉さんが続く。


「皆さん……――はいっ!ありがとうっ、ございます!!」


 そのはきはきと出された言葉に緊張は無く。

 恐怖すら吹き飛ばしてしまったような笑顔で、イリアは言う。


 さぁ……出会ってから約四ヶ月。

 イリアと俺たちの戦いを……始めに行こうぜ。

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